イットリウム系高温超伝導体として代表的な
YBa2Cu3O7-δ(YBCO、Y123)
は、大学レベルの無機化学・材料系の設備があれば、原料粉末から固相反応によって作製できます。
適切に作製されたYBCOは超伝導転移温度が約90 K付近にあるため、液体窒素で冷却することで、
永久磁石が浮上する様子を観察できます。
筆者も大学在学時に、研究室の設備を利用して小型のYBCO試料を作製した経験があります。
学生実験程度の規模であれば、大型のバルク試料を作る必要はなく、
米粒程度の小さな焼結体でも、条件が良ければ液体窒素中で磁石の浮上を確認できます。
この記事では、大学・研究機関など適切な実験設備が使用できることを前提として、
YBCOの原料の配合、混合、焼成、粉砕、成形、再焼成、
液体窒素を用いた磁気浮上の観察までを紹介します。
この実験は家庭で行うことを想定していません。
900℃を超える高温の電気炉、粉末試薬、油圧プレス、液体窒素などを扱います。
大学・研究機関など、安全設備が整った環境で、指導者や施設の安全管理に従って実施してください。
YBCOとは
YBCOは、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、酸素(O)からなる
銅酸化物系の高温超伝導体です。
代表的な組成は
YBa2Cu3O7-δ
で、Y、Ba、Cuの比率が1:2:3であることから「Y123」と呼ばれることもあります。
適切な酸素量と結晶構造を持つYBCOでは超伝導転移温度が約90 K付近となり、
液体窒素の沸点である約77 Kまで冷却すると超伝導状態になります。
そのため、液体ヘリウムを必要とする低温超伝導体に比べ、
大学の学生実験でも超伝導現象を観察しやすい材料です。
リニアモーターカーではどのような超伝導体が使われているのか
超伝導というと、リニアモーターカーを思い浮かべる人も多いと思います。
ただし、今回作製するYBCOと、超電導リニアの車両に搭載されている超伝導磁石では、
使用される材料や冷却温度が異なります。
JR東海の超電導リニア(SCMAGLEV)では、
車上の超電導磁石のコイルに
ニオブ・チタン合金(Nb-Ti)
が使用されています。
Nb-Tiは金属系の代表的な低温超伝導材料で、
一般的な実用合金では臨界温度はおよそ
9 K前後(約-264℃)
です。
実際の超電導リニアでは、液体ヘリウムを利用して
約4 K(約-269℃)付近
まで冷却し、安定した超伝導状態で強力な磁場を発生させます。
| 項目 | 今回作るYBCO | 超電導リニアの代表的な超伝導磁石 |
|---|---|---|
| 代表的な材料 | YBa2Cu3O7-δ | Nb-Ti(ニオブ・チタン合金) |
| 材料の種類 | 銅酸化物系高温超伝導体 | 金属系低温超伝導体 |
| 臨界温度の目安 | 約90 K(約-183℃) | 約9 K前後(約-264℃) |
| 代表的な冷却 | 液体窒素(約77 K、約-196℃) | 液体ヘリウムを用いた約4 K級の冷却 |
| 主な用途 | 教育実験、研究、超伝導線材など | 強力な車上超電導磁石 |
超伝導体が臨界温度以下になると、電気抵抗が消失するとともに、
磁場を排除しようとするマイスナー効果が現れます。
ただし、超電導リニアが車体を浮かせる仕組みを
「マイスナー効果だけで浮いている」と説明するのは正確ではありません。
超電導リニアでは、車上の超電導磁石が非常に強い磁場を作り、
地上側の浮上・案内コイルに誘導される電流との電磁力によって
車体の浮上と案内を行います。
つまり、今回のYBCOと永久磁石を使った小型の浮上実験は
超伝導の磁気的性質を分かりやすく観察する実験ですが、
実際の超電導リニアでは、その性質を利用して作った
極めて強力な超電導電磁石が重要な役割を担っています。
YBCOは約90 K以下で超伝導状態になるため、約77 Kの液体窒素で冷却できます。
一方、超電導リニアに使われるNb-Tiは臨界温度が約9 K前後なので、
液体窒素では冷却が足りず、約4 K級の液体ヘリウム冷却が必要になります。
必要な試薬・設備
主な原料
| 物質 | 化学式 | 役割 |
|---|---|---|
| 酸化イットリウム | Y2O3 | イットリウム源 |
| 炭酸バリウム | BaCO3 | バリウム源 |
| 酸化銅(II) | CuO | 銅源 |
主な器具・設備
- 分析天秤
- メノウ乳鉢・乳棒
- アルミナるつぼなどの耐熱容器
- 900~950℃程度以上まで使用できる電気炉
- 耐熱トング、耐熱手袋など
- 粉体を安全に扱える局所排気設備
- ペレット成形用の金型・油圧プレス
- 液体窒素
- 液体窒素用デュワーなどの適切な断熱容器
- 小型の強力な永久磁石(ネオジム磁石など)
- 保護眼鏡、必要に応じてフェイスシールドなどの保護具
乳鉢はメノウ乳鉢を使用することが好ましい
原料を混ぜるだけであれば一般的な乳鉢でも作業できますが、
この実験ではメノウ乳鉢を使用することをおすすめします。
理由は、焼成後の試料がかなり硬くなるためです。
焼成したYBCO系試料を再び細かく粉砕するときには乳鉢へ大きな負荷がかかり、
一般的な乳鉢では表面が傷だらけになることがあります。
筆者が実際に作製した際にも、焼成後の試料はかなり硬く、
再粉砕は原料粉末を混ぜるときより明らかに力の必要な作業でした。
また、乳鉢自体が削れると試料へ不純物が混入する原因にもなります。
YBCOは不純物や組成のずれによって特性が悪化する可能性があるため、
硬く耐摩耗性の高いメノウ乳鉢を使用した方が扱いやすくなります。
メノウ乳鉢が傷ついた場合の手入れ・研磨
メノウは硬い材料ですが、焼結した硬い試料を繰り返し粉砕すると、
乳鉢の内面に細かな傷が付くことがあります。
浅い擦り傷であれば、研磨によって表面をある程度整えられる場合があります。
メノウは主に二酸化ケイ素(SiO2)からなる石英系の材料なので、
石材・宝石研磨では、段階的に細かい研磨材へ切り替えて表面を仕上げます。
仕上げ研磨には
酸化セリウム系の研磨材
が石英・メノウの研磨に利用されます。
- 乳鉢を十分に洗浄し、付着している試料粉末を完全に除去します。
- 傷がある部分を確認し、必要な場合は細かい研磨材から段階的に研磨します。
- 最終仕上げでは、酸化セリウムなどの微細な研磨材を少量の水でスラリー状にして磨きます。
- 研磨後は大量の水で十分に洗浄し、研磨材を残さないようにします。
- 純水などで仕上げ洗浄し、十分に乾燥させてから使用します。
ただし、爪が引っ掛かるような深い傷、欠け、ひび割れがある場合は、
無理に自分で削って修復しない方が安全です。
乳鉢は粉砕時に強い力が加わる器具なので、
深い損傷がある場合はメーカーや理化学機器業者へ再研磨・修理を相談するか、
交換を検討してください。
また、高純度試料や微量元素分析用の試料を扱う場合は、
研磨材そのものが新たな汚染源になる可能性があります。
研磨した乳鉢をそのまま高純度実験へ戻すのではなく、
十分な洗浄を行い、必要であれば用途を分けることをおすすめします。
原料の配合
Y、Ba、Cuの原子比が1:2:3になるように原料を秤量します。
Y2O3、BaCO3、CuOを使用する場合、
基本となる化学量論比は次のようになります。
Y2O3 +
4BaCO3 +
6CuO
→
2YBa2Cu3O7-δ
例えば、反応前の原料粉末の合計を約2.00 gとする場合の秤量例は次のとおりです。
| 原料 | 秤量例 |
|---|---|
| Y2O3 | 約0.303 g |
| BaCO3 | 約1.058 g |
| CuO | 約0.640 g |
| 合計 | 約2.00 g |
これは最終的に2 gのYBCOが得られるという意味ではなく、
反応前の原料粉末の合計を約2 gにした場合の目安です。
試薬純度や使用する実験手順によって条件は変わるため、
研究室・大学で指定された手順がある場合はそちらを優先してください。
YBCOの作製方法
YBCOは固相反応によって作製できます。
固体同士を反応させるため、一度混ぜて焼くだけでは反応が均一に進まないことがあります。
そのため、
混合・焼成・粉砕・成形・再焼成
を繰り返して試料を均一化していきます。
1.原料を秤量する
Y2O3、BaCO3、CuOを所定の比率で秤量します。
粉末を飛散させないよう静かに取り扱い、
使用する試薬のSDSと研究室の粉体取扱規則に従って作業します。
2.メノウ乳鉢で十分に混合・粉砕する
秤量した粉末をメノウ乳鉢へ移し、十分に混合します。
固相反応では異なる原料粒子が接触している場所から反応が進むため、
粒子を細かくしながら均一に混ぜることが重要です。
目安としては30分程度、乳鉢で丁寧に混合・粉砕します。
粉末の色や粒度ができるだけ均一になるようにします。
3.第1回焼成を行う
混合した粉末をアルミナるつぼへ移し、電気炉で焼成します。
一例として、
約5時間かけて920℃まで昇温し、920℃で約10時間保持した後、
約10時間かけて室温付近まで冷却する
という温度プロファイルがあります。
したがって、1回の焼成工程は昇温・保持・冷却を含めると
およそ25時間程度を見込むことになります。
炉の特性、試料量、るつぼ、雰囲気などによって適切な条件は変わるため、
これはあくまで大学実験レベルでの目安として考えてください。
4.冷却後、再び粉砕する
試料が十分に冷えたことを確認してから取り出し、
再びメノウ乳鉢で細かく粉砕します。
一度焼成した試料は原料粉末とは違って非常に硬くなっている場合があります。
無理に大きな塊を一度に砕こうとせず、
少量ずつ細かくしながら均一な粉末へ戻します。
5.粉末をペレット状に成形する
粉砕した試料を金型へ入れ、油圧プレスを使用してペレット状に成形します。
磁気浮上を見るだけであれば大型の試料は必要なく、
数mm程度の小型試料でも観察できます。
加圧条件については使用する金型とプレスの定格を必ず守ります。
金型の破損は重大事故につながるため、
装置ごとに定められた方法・荷重を使用してください。
6.成形した試料を再び焼成する
成形した試料を再び電気炉へ入れます。
目安としては第1回焼成と同様に、
約5時間で920℃まで昇温 → 920℃で約10時間保持 → 約10時間かけて冷却
という条件を使用できます。
筆者が実際に作製したときは、
成形・焼成・粉砕を含む処理を2回程度行った段階でも磁気的な挙動を確認できました。
ただし、必要な回数は原料の混ざり具合、粒径、焼成条件などによって変わります。
2回で十分に反応しない場合は、
再粉砕 → 成形 → 再焼成
をさらに繰り返します。
回数そのものが目的ではなく、
未反応部分や不均一な部分を減らして目的のYBCO相を形成させることが重要です。
7.酸素量を整える
YBCOではY:Ba:Cu=1:2:3になっているだけでは十分ではありません。
化学式の
YBa2Cu3O7-δ
が示すように、結晶中の酸素量が超伝導特性へ大きく影響します。
高温処理後の冷却や、必要に応じた酸素雰囲気でのアニールによって酸素状態を整えます。
この工程は使用する炉や研究室の手順による違いが大きいため、
所属施設で定められている条件を優先してください。
原料を秤量して一度焼くだけではなく、
混合 → 焼成 → 粉砕 → 成形 → 再焼成
を繰り返して均一な焼結体を作ることが重要です。
2回程度でうまくいく場合もありますが、条件によってはさらに回数を増やす必要があります。
電気炉を使用するときの注意点
炉の中を不用意に覗き込まない
焼成中や高温状態の電気炉を、不必要に正面から覗き込まないようにします。
試料や容器が破裂したり、割れたり、
何らかの突発的な衝撃によって高温の試料片が飛び出した場合、
顔や目へ直撃するおそれがあります。
特に目へ高温の破片が入れば重大な眼損傷につながり、
最悪の場合は視力を失う危険もあります。
炉を開閉するときは顔を炉口の正面へ近づけず、
施設で指定された保護眼鏡やフェイスシールドなどを使用してください。
やけどに注意する
900℃以上で加熱されたるつぼや試料は非常に危険です。
見た目だけでは高温かどうか判断できないこともあります。
耐熱トングや適切な耐熱保護具を使用し、
十分に冷却されたことを確認してから取り扱います。
液体窒素で磁気浮上を確認する
完成したYBCOは室温では黒色のセラミックスのように見えます。
外観だけでは超伝導体になっているか判断できないため、
液体窒素で約77 Kまで冷却して磁気的な挙動を観察します。
使用する磁石
磁気浮上を観察するには、
小型で強力な永久磁石を使用します。
入手しやすいものではネオジム磁石が適しています。
磁石が大きすぎると重量も増えるため、
試料が小さい場合は小型で軽量かつ磁力の強い磁石の方が観察しやすくなります。
ネオジム磁石同士を勢いよく吸着させると割れたり指を挟んだりすることもあるため、
磁石自体の取り扱いにも注意してください。
観察方法
もっとも簡単なのは、まずYBCOを液体窒素で十分に冷却し、
その後にネオジム磁石を近づけて反発や浮上を確認する方法です。
- 適切な断熱容器へYBCO試料を置きます。
- 液体窒素を加えて試料を十分に冷却します。
- 液体窒素の激しい沸騰が落ち着くまで待ちます。
- 小型のネオジム磁石をピンセット等で試料へ慎重に近づけます。
- 磁石が反発したり、試料上方で浮上・安定するかを確認します。
磁石が弾かれて安定しない場合は、磁場をかけた状態で冷却する
試料を先に冷却してから磁石を近づけると、
反発力によって磁石または試料が横へ弾かれ、
小さな試料では位置が安定しないことがあります。
その場合は、
磁石と超伝導体の位置関係を決めてから、その状態のまま液体窒素で冷却する方法
を試すと、安定した浮上を観察しやすくなる場合があります。
例えば、小型のネオジム磁石の上にYBCO試料を置き、
両者がずれないよう静かに配置した状態で液体窒素を加えて冷却します。
試料が臨界温度を下回ると、冷却時に存在していた磁場の一部が
試料内部の欠陥などへ固定される磁束ピンニングが働き、
磁石と試料の相対位置が安定しやすくなります。
十分に冷却された後、ピンセットなどで試料をわずかに持ち上げたり、
磁石との位置を慎重に調整すると、
単純に強く弾かれる場合よりも安定した浮上状態を作れることがあります。
「超伝導体だけを先に冷却してから磁石を近づける方法」で弾かれてしまう場合は、
磁石と試料を配置した状態で冷却する方法も試してみてください。
YBCOのような第二種超伝導体では、磁束ピンニングを利用した方が
位置関係を安定させやすい場合があります。
良好な試料であれば、米粒程度の大きさでも、
磁石との組み合わせによって浮上を確認できることがあります。
室温へ戻るにつれて超伝導状態は失われ、磁気浮上も維持できなくなります。
液体窒素を使用するときの注意点
液体窒素の温度は約-196℃です。
研究室では比較的よく使用される寒剤ですが、
扱いを誤ると重い凍傷や眼損傷、酸欠事故などにつながります。
液体窒素へ素手を入れない
いたずらや実演目的で液体窒素へ手や指を入れてはいけません。
液体窒素が皮膚へ接触すると急速に組織を凍結させ、
重度の凍傷や組織損傷を起こす危険があります。
損傷が深ければ組織が壊死する可能性もあります。
非常に短い接触では皮膚表面との間に窒素ガスの膜ができることがありますが、
これは安全を保証するものではありません。
皮膚が濡れている場合、液体が衣服や手袋の内部へ入り込んだ場合、
接触時間が長くなった場合などには重い凍傷につながるため、
いわゆる「液体窒素に一瞬なら手を入れても大丈夫」という実演を安全な操作として真似してはいけません。
目や顔を保護する
液体窒素を注ぐ際には飛沫が発生することがあります。
目へ入れば重大な凍傷・眼損傷につながるため、
保護眼鏡を着用し、施設の規則に応じてフェイスシールドなども使用します。
密閉容器に入れない
液体窒素は気化すると体積が大きく増加します。
密閉容器へ入れると内部圧力が上昇し、容器が破裂する危険があります。
液体窒素は必ず専用のデュワーなど、
気化した窒素を安全に逃がせる容器で取り扱います。
換気の悪い場所で大量に使用しない
窒素ガス自体には強い臭いなどがありません。
液体窒素が大量に気化すると周囲の酸素を押しのけ、
酸素欠乏状態になる危険があります。
換気の悪い狭い部屋で大量に使用せず、
施設で定められている換気設備・酸素濃度管理等に従います。
液体窒素で冷えた器具にも触れない
危険なのは液体そのものだけではありません。
液体窒素に浸した金属製ピンセット、容器、試料なども極低温になります。
素手で触れると皮膚が凍り付き、損傷する可能性があるため、
十分に温度が戻るまで直接触れないようにします。
うまく磁石が浮かないときに考えられる原因
黒い焼結体が完成していても、必ず磁石がきれいに浮くとは限りません。
うまくいかない場合には次のような原因が考えられます。
- 原料の秤量比がずれている
- 混合・粉砕が不十分
- 焼成温度や保持時間が適切でない
- 未反応の原料や副生成相が残っている
- 焼結が不十分
- 酸素量が適切でない
- 液体窒素で十分に冷却されていない
- 試料に対して磁石が重すぎる、または磁力が弱い
- 作製途中で不純物が混入している
不純物が混入すると逆に磁石へくっつくこともある
筆者が実際にYBCOを作製した際には、
超伝導体として磁石と反発するどころか、
試料が磁石へ引き寄せられてくっついてしまった
ことがありました。
この試料は作製に失敗したものと考えられ、
工程中に鉄分などの磁性を持つ不純物が混入した可能性があります。
ただし、当時その試料について不純物の元素分析まで行ったわけではないため、
鉄が原因だったと断定することはできません。
このような経験からも、試薬の純度だけでなく、
乳鉢、乳棒、へら、金型、るつぼなどからの汚染をできるだけ避けることが重要です。
特に粉砕工程では器具の摩耗による異物混入にも注意します。
X線回折装置(XRD)が使用できる場合は、
完成した試料に目的のYBCO相が形成されているか、
副生成相や異相が存在していないかを調べることができます。
さらに四端子法で温度に対する電気抵抗を測定すれば、
磁気浮上だけでなく超伝導転移そのものを確認できます。
マイスナー効果と磁束ピンニング
超伝導体の磁気浮上は「マイスナー効果」と説明されることが多いですが、
YBCOの浮上を理解する場合には磁束ピンニングも重要です。
YBCOは第二種超伝導体です。
第二種超伝導体では条件によって磁束が量子化された状態で内部へ侵入し、
材料中の欠陥などへ磁束が固定される
磁束ピンニング
が起こります。
そのため、磁石が単純に反発するだけでなく、
超伝導体との位置関係がある程度固定され、
磁石が安定して浮いているような状態を観察できることがあります。
まとめ
YBCOは、大学レベルの設備があれば
Y2O3、BaCO3、CuOから固相反応によって作製できます。
作製では、
正確な秤量、十分な混合、焼成、再粉砕、成形、再焼成、酸素状態の調整
が重要です。
筆者が実際に作製した際には2回程度の処理でも結果を確認できましたが、
条件によってはさらに粉砕と焼成を繰り返す必要があります。
また、焼成後の試料は非常に硬くなるためメノウ乳鉢が扱いやすく、
器具からの不純物混入を避けることも重要です。
実際に磁石へ逆に引き寄せられる失敗試料を経験したことからも、
試料の純度は軽視できません。
完成した試料は米粒程度でも、
液体窒素で十分に冷却し、小型で強力なネオジム磁石を使用することで、
超伝導体特有の磁気的挙動を目で確認できます。
一方で、高温炉と液体窒素はいずれも重大事故につながる可能性があるため、
大学・研究機関の安全管理下で行うことが前提となります。
参考資料
-
R. Jack Hanni, Crystal Synthesis of Selected Quantum Materials,
Brigham Young University–Idaho, 2021.
YBCOについて、メノウ乳鉢で30分粉砕し、
5時間で920℃へ昇温、10時間保持、約10時間で冷却した後、
再粉砕・ペレット化して同じ温度プロファイルで再焼成する方法が記載されています。 -
University of Wisconsin–Madison Environment, Health & Safety,
Cryogenic Liquids.
液体窒素を含む極低温液体について、凍傷・低温やけど・酸素欠乏などの危険性が解説されています。 -
University of California, Berkeley, Department of Chemistry,
Safe Handling of Cryogenic Liquids.
極低温液体との短時間の接触でも組織損傷を起こし得ることや、
長時間接触による重篤な障害について解説されています。 -
Central Japan Railway Company (JR Central),
SUPERCONDUCTING MAGLEV (SCMAGLEV).
車上超電導磁石のコイルにニオブ・チタン合金を使用し、
液体ヘリウムで極低温まで冷却することが説明されています。 -
U.S. Department of Energy,
DOE Explains…Superconductivity.
臨界温度以下でのゼロ抵抗と磁場排除(マイスナー効果)の基本が解説されています。 -
Funakoshi Co., Ltd.,
Mortar Made of Agate and Quartz Glass.
メノウ乳鉢が研磨仕上げされ、試料回収性を高める用途で使用されることが紹介されています。
