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蒸散作用の考察例|葉の表裏・ワセリン処理・蒸散速度・誤差原因

蒸散作用の実験では、植物体から水が失われる量を測定し、葉の表面、裏面、気孔、光、温度、湿度、風などが蒸散速度へ与える影響を調べます。

植物が根から吸収した水の多くは、道管を通って葉まで運ばれ、葉の内部から水蒸気となって外気へ放出されます。この現象を蒸散といいます。

蒸散は主に葉の気孔を通して起こりますが、クチクラなど葉の表面からも少量の水が失われます。気孔の数は葉の表裏で異なることが多いため、ワセリンなどで葉面を覆う実験によって、蒸散がどの面で多く起こるかを比較できます。

この記事では、葉の付いた枝を用いた質量減少法を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。

注意:

この記事は、学校や大学などの生物実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の結果ではありません。

枝を切る際にカッターや剪定ばさみを使用する場合は、刃先を自分や周囲の人へ向けず、切り傷に注意してください。

ワセリンを葉へ塗布する場合は、目や口へ入れないようにし、実験後は手を洗ってください。実際の操作は実験書および担当教員の指示に従ってください。

蒸散作用の基本

蒸散が起こる場所

葉の内部には細胞間隙があり、葉肉細胞の表面から蒸発した水は水蒸気となって細胞間隙へ移動します。その後、水蒸気は主に気孔を通って外気へ拡散します。

気孔蒸散

気孔を通して起こる蒸散です。葉から失われる水の多くは気孔蒸散によるものです。気孔の開閉状態によって蒸散速度は大きく変化します。

クチクラ蒸散

葉の表皮を覆うクチクラ層を通して起こる蒸散です。気孔蒸散より少ないことが一般的ですが、気孔が閉じている場合でも完全には0になりません。

蒸散の役割

  • 根から葉への水の移動を促す
  • 無機塩類の輸送を助ける
  • 葉の温度上昇を抑える
  • 細胞の膨圧維持に関係する

結果に記録する主な項目

  • 使用した植物名
  • 枝や葉の本数
  • 葉の総面積
  • 葉面の処理条件
  • ワセリンを塗布した面
  • 実験開始時の質量
  • 実験終了時の質量
  • 質量減少量
  • 測定時間
  • 単位時間あたりの蒸散量
  • 単位葉面積あたりの蒸散速度
  • 対照区との差
  • 抑制率
  • 室温
  • 湿度
  • 風の有無または風速
  • 光条件
  • 測定回数
  • 平均値
  • 標準偏差
  • 葉のしおれや外観変化

参考実験条件

項目 参考条件
植物材料 ツバキの葉付き枝
葉数 各条件5枚
枝の長さ 約15 cm
容器 水を入れた小型フラスコ
水面処理 流動パラフィンで覆い、水面からの蒸発を防止
葉面処理 無処理、表面のみ、裏面のみ、両面にワセリン
測定時間 60分
温度 25 ℃
相対湿度 50%
光条件 明条件
反復数 各条件3回

参考実験値

葉面処理と質量減少量

処理条件 開始時質量(g) 終了時質量(g) 質量減少量(g/60分)
無処理 128.42 127.82 0.60
表面のみワセリン 127.96 127.48 0.48
裏面のみワセリン 128.15 127.98 0.17
両面ワセリン 128.08 128.01 0.07
葉なし対照 122.30 122.28 0.02

反復測定例

処理条件 1回目(g/60分) 2回目(g/60分) 3回目(g/60分) 平均(g/60分)
無処理 0.58 0.61 0.60 0.597
表面のみ 0.46 0.49 0.48 0.477
裏面のみ 0.16 0.18 0.17 0.170
両面 0.06 0.08 0.07 0.070

環境条件と蒸散量

条件 温度(℃) 相対湿度(%) 質量減少量(g/60分)
暗・無風 25 50 0.24
明・無風 25 50 0.60
明・送風 25 50 0.88
明・高湿度 25 80 0.31
明・高温 35 50 0.82

葉面積を補正した参考値

処理条件 葉面積(cm²) 蒸散量(g/60分) 蒸散速度(mg/cm²・h)
無処理 120 0.60 5.00
表面のみ 118 0.48 4.07
裏面のみ 121 0.17 1.40
両面 119 0.07 0.59

計算方法

質量減少量

開始時質量が128.42 g、終了時質量が127.82 gの場合は、次のようになります。

質量減少量 = 開始時質量 − 終了時質量

= 128.42 − 127.82

= 0.60 g

1時間あたりの蒸散量

30分間で0.30 g減少した場合は、次のようになります。

蒸散速度 = 質量減少量 ÷ 測定時間

= 0.30 g ÷ 0.5 h

= 0.60 g/h

葉なし対照による補正

無処理区の質量減少量が0.60 g、葉なし対照が0.02 gであった場合は、次のようになります。

補正蒸散量 = 試験区の質量減少量 − 葉なし対照の質量減少量

= 0.60 − 0.02

= 0.58 g/60分

単位葉面積あたりの蒸散速度

葉面積120 cm²、1時間の蒸散量0.60 gの場合、0.60 gを600 mgへ換算します。

蒸散速度 = 蒸散量 ÷ 葉面積 ÷ 時間

= 600 mg ÷ 120 cm² ÷ 1 h

= 5.00 mg/(cm²・h)

蒸散抑制率

無処理区が0.60 g、裏面ワセリン区が0.17 gの場合は、次のようになります。

抑制率(%) = (無処理区 − 処理区) ÷ 無処理区 × 100

= (0.60 − 0.17) ÷ 0.60 × 100

≈ 71.7%

表面側と裏面側の寄与の比較

ワセリンで覆った面からの蒸散が抑えられると仮定し、無処理区との差を用いて見かけ上の寄与を比較します。

表面を覆ったことによる減少量 = 0.60 − 0.48 = 0.12 g

裏面を覆ったことによる減少量 = 0.60 − 0.17 = 0.43 g

この例では、裏面を覆ったときの減少量が大きいため、葉の裏面からの蒸散が多かったと考えられます。

平均値

無処理区の測定値が0.58、0.61、0.60 gであった場合は、次のようになります。

平均 = (0.58 + 0.61 + 0.60) ÷ 3

= 0.597 g/60分

標準偏差

s = √{Σ(xi − x̄)2/(n − 1)}

無処理区の0.58、0.61、0.60 gから求めた標準偏差は、約0.015 gです。

条件間の増加率

明・無風条件の0.60 g/hに対し、明・送風条件が0.88 g/hであった場合は、次のようになります。

増加率(%) = (0.88 − 0.60) ÷ 0.60 × 100

≈ 46.7%

主な誤差原因

誤差原因 測定への影響 結果に現れやすい傾向 改善方法
水面からの蒸発 植物以外の水分減少が加わる 蒸散量を過大評価する 水面を流動パラフィンなどで覆う
容器の密閉不足 隙間から水が蒸発する 蒸散量を過大評価する 栓やパラフィルムで密閉する
葉なし対照を置かない 装置由来の減少を補正できない 真の蒸散量より大きくなる 葉なし対照を同時測定する
葉面積が異なる 蒸散可能な面積が異なる 葉の多い試料ほど値が大きい 葉面積をそろえるか面積補正する
葉齢や葉の状態が異なる 気孔数や開閉状態が異なる 試料間でばらつく 同じ個体の近い位置の葉を用いる
切断時に道管へ空気が入る 吸水が妨げられる 葉がしおれ、蒸散量が低下する 水中で茎を切り直す
ワセリンの塗りむら 気孔を十分に覆えない 処理効果を過小評価する 薄く均一に塗る
ワセリンが葉柄や枝へ付着 正常な水移動へ影響する 処理区の蒸散量が不自然に低下する 指定した葉面だけへ塗る
ワセリンの重さ 開始時質量が条件ごとに異なる 単純比較が難しくなる 塗布後の質量を開始値とする
秤量中の時間差 測定中にも蒸散が進む 条件ごとの開始時刻がずれる 一定順序で素早く測定する
天びんの精度不足 小さな質量差を検出しにくい 低蒸散条件の誤差が大きい 適切な最小表示の天びんを使う
室温の変動 蒸発速度と気孔開閉が変化する 時間帯によって値が変わる 恒温条件で測定する
湿度の変動 葉内外の水蒸気濃度差が変わる 低湿度ほど蒸散が増える 湿度を測定・統一する
風の当たり方が異なる 葉面の境界層が変化する 風が強い試料ほど値が大きい 風速と向きを統一する
光の強さが異なる 気孔の開閉状態が変わる 明条件で蒸散が増えることがある 照度と照射方向を統一する
測定時間が短い 質量差が小さく相対誤差が増える ばらつきが大きくなる 適切な測定時間を設定する
測定時間が長すぎる 水不足で気孔が閉じる 後半の蒸散速度が低下する 途中経過も測定する
気孔分布の個体差 葉ごとの蒸散能力が異なる 表裏差がばらつく 反復数を増やす

無処理区で質量減少が大きい理由

無処理区では葉の表面と裏面の気孔およびクチクラから水が失われます。そのため、葉面をワセリンで覆った処理区よりも蒸散量が大きくなります。

葉の裏面を覆うと蒸散量が大きく減る理由

多くの陸上植物では、葉の裏面に気孔が多く分布しています。裏面へワセリンを塗ると、多数の気孔が覆われ、水蒸気の放出が妨げられるため、蒸散量が大きく減少します。

両面を覆っても質量減少が0にならない理由

ワセリンの塗りむら、水面や容器からのわずかな蒸発、枝や葉柄からの水分損失、秤量誤差などがあるため、質量減少が完全に0にならないことがあります。

風によって蒸散が増える理由

葉の表面には、水蒸気を多く含む静かな空気の層が形成されます。これを境界層といいます。風が当たると境界層が薄くなり、葉内外の水蒸気濃度差が保たれるため、蒸散が促進されます。

高湿度で蒸散が減る理由

外気の湿度が高いと、葉の内部と外気との水蒸気濃度差が小さくなります。そのため、水蒸気の拡散速度が低下し、蒸散量が減少します。

明条件で蒸散が増える理由

多くの植物では、光により気孔が開きやすくなります。気孔が開くと、水蒸気が外へ拡散しやすくなるため、暗条件より蒸散量が増加することがあります。

結果の書き方の例

ツバキの葉付き枝を用い、葉面へのワセリン処理が蒸散量へ与える影響を、60分間の質量減少量から調べた。

質量減少量は、無処理区で0.60 g、表面のみを覆った区で0.48 g、裏面のみを覆った区で0.17 g、両面を覆った区で0.07 gであった。

無処理区で最も質量減少が大きく、両面をワセリンで覆った区で最も小さかった。

また、表面のみを覆った場合より、裏面のみを覆った場合の方が蒸散量は大きく減少した。

葉なし対照では0.02 gの質量減少が見られたため、無処理区の補正蒸散量は0.58 g/60分となった。

考察につなげるポイント

  • 無処理区とワセリン処理区で蒸散量はどう変化したか。
  • 葉の表面と裏面ではどちらからの蒸散が多かったか。
  • その違いは気孔分布とどのように関係するか。
  • 両面を覆っても蒸散量が0にならなかったのはなぜか。
  • 葉なし対照を設ける必要があるのはなぜか。
  • 光、温度、湿度、風は蒸散速度へどう影響したか。
  • 葉面積の違いをどのように補正したか。
  • 枝の切断方法は結果へどう影響したか。
  • ワセリンの塗りむらはどのような誤差を生むか。
  • 測定中に気孔が閉じた可能性はあるか。
  • 質量減少量をすべて蒸散によるものとみなせるか。
  • 蒸散にはどのような生理的役割があるか。

考察例

本実験では、ツバキの葉面へワセリンを塗布し、60分間の質量減少量から蒸散量を比較した。

無処理区の質量減少量は0.60 gで最も大きく、表面のみを覆った区では0.48 g、裏面のみを覆った区では0.17 g、両面を覆った区では0.07 gであった。

ワセリンは葉面を覆い、水蒸気が気孔やクチクラを通って外へ出るのを妨げる。そのため、処理した面が増えるほど蒸散量が減少したと考えられる。

表面のみを覆った区では無処理区に比べて0.12 g減少したのに対し、裏面のみを覆った区では0.43 g減少した。このことから、観察した植物では葉の裏面からの蒸散が多かったと考えられる。

多くの陸上植物では、葉の裏面に気孔が多く分布している。裏面へワセリンを塗ることで多数の気孔が塞がれ、水蒸気の拡散が大きく抑制されたため、蒸散量が著しく減少したと考えられる。

両面を覆った区でも0.07 gの質量減少が見られた。これは、ワセリンの塗りむら、枝や葉柄からの水分損失、容器の隙間や水面からの蒸発、天びんの測定誤差などによる可能性がある。

葉なし対照でも0.02 gの質量減少が見られたため、装置からの蒸発が完全には防止されていなかったと考えられる。無処理区の補正蒸散量は0.58 g/60分となり、対照を設けることで植物由来の水分損失をより適切に推定できる。

明条件では暗条件より蒸散量が大きかった。光によって気孔が開き、水蒸気が葉外へ拡散しやすくなったためと考えられる。

送風条件では無風条件より蒸散量が増加した。風によって葉面の湿った境界層が取り除かれ、葉内部と外気との水蒸気濃度差が保たれたためである。

高湿度条件では蒸散量が減少した。外気中の水蒸気量が多くなり、葉内部と外気との水蒸気濃度差が小さくなったため、水蒸気の拡散速度が低下したと考えられる。

高温条件では蒸散量が増加した。温度上昇によって水分子の運動が活発になり、蒸発が促進されたためである。ただし、さらに高温になると水不足によって気孔が閉じ、蒸散量が低下する可能性もある。

今回の比較では各試料の葉面積が完全には一致していなかったため、単純な質量減少量だけで比較すると、葉の大きさの影響が含まれる。

葉面積120 cm²、蒸散量0.60 g/hの無処理区では、単位葉面積あたりの蒸散速度は5.00 mg/(cm²・h)であった。葉面積で補正することで、試料サイズが異なる場合でも比較しやすくなる。

誤差原因として、枝の切断時に道管へ空気が入った可能性が挙げられる。道管内に気泡が生じると吸水が妨げられ、葉がしおれて気孔が閉じ、蒸散量が低下する。

これを防ぐには、枝の切断面を水中で切り直し、道管へ空気が入らないようにする必要がある。

また、ワセリンの塗りむらがあると、一部の気孔が開放されたままとなり、処理区の蒸散量を過大評価する。反対に、ワセリンが葉柄や枝へ付着すると水の移動へ影響し、蒸散量を必要以上に低下させる可能性がある。

測定時間が長すぎる場合、植物体の水分不足によって気孔が閉じ、蒸散速度が時間とともに低下する可能性がある。そのため、一定時間ごとに質量を測定し、蒸散量が時間に対して直線的に変化しているか確認することが望ましい。

測定精度を高めるには、葉面積と葉齢をそろえること、温度・湿度・風速・光強度を一定にすること、水面からの蒸発を防ぐこと、葉なし対照を設けること、各条件で複数回測定することが重要である。

以上より、葉からの蒸散は主に気孔を通して起こり、今回用いた植物では葉の裏面からの蒸散が多いことが示された。また、蒸散速度は光、温度、湿度、風などの環境条件によって変化することが分かった。

無処理区と処理区の差が小さかった場合の考察例

無処理区とワセリン処理区の差が小さかった原因として、ワセリンの塗りむら、気孔があまり開いていなかったこと、高湿度や暗条件によって蒸散自体が少なかったこと、測定時間が短かったことなどが考えられる。

表面を覆った方が大きく減少した場合の考察例

葉の表面を覆った区で蒸散量が大きく減少した場合、使用した植物では表面側にも多くの気孔が分布していた可能性がある。ただし、ワセリン量、葉面積、葉の状態、塗布範囲がそろっていたかも確認する必要がある。

両面処理区で質量が大きく減少した場合の考察例

両面を覆った区でも質量が大きく減少した場合、ワセリンの塗りむら、水面や容器からの蒸発、密閉不足、枝や葉柄からの水分損失などが考えられる。

測定値のばらつきが大きかった場合の考察例

測定値のばらつきが大きかった原因として、葉面積、葉齢、気孔開度、枝の切断状態、ワセリンの塗布量、温度、湿度、風の当たり方などが試料ごとに異なっていた可能性がある。

まとめ

蒸散は、植物体内の水が主に葉の気孔を通って水蒸気として外気へ失われる現象です。

葉面へワセリンを塗ると気孔やクチクラからの水分損失が抑えられるため、質量減少量は小さくなります。

葉の裏面を覆ったときに蒸散量が大きく減少した場合、裏面に気孔が多く分布し、裏面からの気孔蒸散が主要であったと考えられます。

蒸散速度は、光、温度、湿度、風、葉面積、気孔の開閉状態などによって変化します。

考察では、ワセリン処理による表裏差、葉面積補正、葉なし対照、環境条件、水面蒸発、塗りむら、切断時の道管への空気混入などを、測定値の差やばらつきと関連づけて説明することが重要です。