熱膨張の実験は、物質の温度を変化させたときに、長さ、面積、体積がどの程度変化するかを調べる実験です。
固体を加熱すると、多くの場合は原子や分子の平均間隔が大きくなり、物体全体の寸法が増加します。反対に、冷却すると寸法は小さくなります。
棒状の固体試料では、加熱前後の長さ変化を測定することで線膨張係数を求められます。線膨張係数は、物質の種類によって異なり、橋梁、鉄道、配管、建築物、精密機器などの設計でも重要な物性値です。
この記事では、金属棒を温水や蒸気などで加熱し、ダイヤルゲージや変位計で長さの変化を測定する実験を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。
注意:
この記事は、学校や大学などの物理実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の測定結果ではありません。
蒸気、熱湯、ヒーター、加熱した金属などを扱う場合は、やけどに注意してください。蒸気出口を人へ向けず、加熱中の試料には素手で触れないでください。ガラス管や温度計の破損、電気ヒーターの感電、配管の抜けにも注意し、実際の操作は所属学校の実験書、担当教員、TAの指示に従ってください。
熱膨張とは
熱膨張とは、温度変化によって物質の寸法が変化する現象です。固体では、長さ方向の変化を線膨張、面積の変化を面膨張、体積の変化を体膨張と呼びます。
線膨張
温度変化が大きすぎず、線膨張係数が一定とみなせる場合、長さ変化は次の式で表されます。
ΔL = αL0ΔT
ここで、ΔL は長さ変化、α は線膨張係数、L0 は初期長さ、ΔT は温度変化です。
したがって、線膨張係数は次の式から求められます。
α = ΔL/(L0ΔT)
線膨張係数の単位はK−1または℃−1です。
面膨張と体膨張
等方的な固体では、面膨張係数を β、体膨張係数を γ とすると、線膨張係数との間におよそ次の関係があります。
β ≈ 2α
γ ≈ 3α
ただし、結晶の方向によって膨張の大きさが異なる異方性材料では、この単純な関係が成り立たない場合があります。
実験の基本原理
棒状試料を加熱すると、温度上昇に伴って長さが増加します。試料の初期長さ、温度変化、長さ変化を測定すれば、線膨張係数を求められます。
温度変化と長さ変化の関係をグラフにすると、温度範囲が狭い場合にはほぼ直線となります。その傾きは次のように表されます。
ΔL/ΔT = αL0
したがって、グラフの傾きを初期長さで割ることでも線膨張係数を求められます。
結果に記録する主な項目
- 試料の材質
- 試料の初期長さ
- 試料の直径または形状
- 初期温度
- 加熱後の温度
- 温度変化
- 加熱前の変位計の値
- 加熱後の変位計の値
- 長さ変化
- 線膨張係数
- 参考値または文献値
- 相対誤差
- 温度と長さ変化のグラフ
- 加熱時と冷却時の測定値
- 繰り返し測定の平均値
- 室温
- 測定器の分解能
- 定常状態へ達するまでの時間
参考実験条件
| 項目 | 参考条件 |
|---|---|
| 試料 | アルミニウム棒 |
| 初期長さL0 | 0.5000 m |
| 初期温度T0 | 20.0 ℃ |
| 加熱後温度T | 80.0 ℃ |
| 温度変化ΔT | 60.0 K |
| 長さ変化ΔL | 0.690 mm |
| 変位計分解能 | 0.001 mm |
| 加熱方法 | 温水または蒸気 |
| 室温 | 20.5 ℃ |
参考実験値
アルミニウム棒の温度と長さ変化
| 温度T(℃) | 温度変化ΔT(K) | 長さ変化ΔL(mm) |
|---|---|---|
| 20.0 | 0.0 | 0.000 |
| 30.0 | 10.0 | 0.116 |
| 40.0 | 20.0 | 0.230 |
| 50.0 | 30.0 | 0.346 |
| 60.0 | 40.0 | 0.459 |
| 70.0 | 50.0 | 0.575 |
| 80.0 | 60.0 | 0.690 |
繰り返し測定の例
| 測定回 | 初期長さ(m) | 温度変化(K) | 長さ変化(mm) | 線膨張係数(10−6 K−1) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 0.5000 | 60.0 | 0.690 | 23.0 |
| 2 | 0.5000 | 59.8 | 0.686 | 22.9 |
| 3 | 0.5000 | 60.2 | 0.696 | 23.1 |
| 平均 | — | — | — | 23.0 |
材料別の参考線膨張係数
| 物質 | 参考線膨張係数(10−6 K−1) |
|---|---|
| アルミニウム | 約23 |
| 銅 | 約17 |
| 真ちゅう | 約19 |
| 鉄 | 約12 |
| ステンレス鋼 | 約16~18 |
| ガラス | 約3~9 |
| インバー合金 | 約1 |
材料ごとの長さ変化の比較
初期長さ0.500 m、温度変化60 Kの場合の参考値です。
| 材料 | 線膨張係数(10−6 K−1) | 長さ変化(mm) |
|---|---|---|
| アルミニウム | 23 | 0.690 |
| 真ちゅう | 19 | 0.570 |
| 銅 | 17 | 0.510 |
| 鉄 | 12 | 0.360 |
| インバー合金 | 1 | 0.030 |
計算方法
温度変化
初期温度20.0 ℃、加熱後温度80.0 ℃の場合は、次のようになります。
ΔT = T − T0
= 80.0 − 20.0
= 60.0 K
長さ変化
加熱前の変位計の値を0.000 mm、加熱後を0.690 mmとした場合は、次のようになります。
ΔL = L − L0
= 0.690 − 0.000
= 0.690 mm
SI単位へ換算すると、次のようになります。
0.690 mm = 6.90 × 10−4 m
線膨張係数
初期長さ0.5000 m、温度変化60.0 K、長さ変化6.90 × 10−4 mの場合は、次のようになります。
α = ΔL/(L0ΔT)
= (6.90 × 10−4)/(0.5000 × 60.0)
= 2.30 × 10−5 K−1
よって、次のようにも表せます。
α = 23.0 × 10−6 K−1
グラフの傾きから求める方法
温度変化と長さ変化のグラフの傾きが0.0115 mm/Kであった場合は、次のようになります。
傾きa = ΔL/ΔT = 0.0115 mm/K
これをm単位へ直すと、1.15 × 10−5 m/Kです。
α = a/L0
= (1.15 × 10−5)/0.5000
= 2.30 × 10−5 K−1
相対誤差
実験値23.0 × 10−6 K−1、参考値23.1 × 10−6 K−1の場合は、次のようになります。
相対誤差(%) = |実験値 − 参考値|/参考値 × 100
= |23.0 − 23.1|/23.1 × 100
= 0.43%
加熱後の長さ
初期長さ0.5000 m、線膨張係数23.0 × 10−6 K−1、温度変化60.0 Kの場合は、次のようになります。
L = L0(1 + αΔT)
= 0.5000 × {1 + (23.0 × 10−6) × 60.0}
= 0.500690 m
主な誤差原因
| 誤差原因 | 測定への影響 | 結果に現れやすい傾向 | 改善方法 |
|---|---|---|---|
| 試料内部の温度むら | 試料全体が測定温度になっていない | 平均温度変化を過大評価し、線膨張係数を小さく求めやすい | 十分に加熱し温度が安定してから読む |
| 温度計の位置が不適切 | 試料の代表温度と異なる温度を測る | 温度変化が正しく求まらない | 試料中央付近または複数点を測定する |
| 変位計のゼロ点ずれ | 全測定値へ一定の偏りが加わる | グラフの切片が0からずれる | 測定前後にゼロ点を確認する |
| 変位計の接触不良 | 試料端の移動を正しく追従しない | 値が不安定になる | 測定端を確実に接触させる |
| 支持台や治具の熱膨張 | 試料以外の伸びも測定値へ含まれる | 線膨張係数を大きく求める場合がある | 装置膨張を校正して補正する |
| 固定端のすべり | 試料の伸びが変位計へ完全に伝わらない | 線膨張係数を小さく求める | 固定状態を確認する |
| 試料の曲がり | 軸方向以外へ変形する | 長さ変化を過小評価する | 試料をまっすぐ設置する |
| 初期長さの測定誤差 | 線膨張係数の分母がずれる | 長さを大きく読むと係数は小さくなる | 有効長さを直接測定する |
| 温度計の応答遅れ | 温度変化を実際より小さく読む場合がある | 線膨張係数を大きく求めやすい | 温度が安定してから記録する |
| 加熱中の振動 | 変位計の指示が揺れる | 測定値のばらつきが大きくなる | 装置を安定した台へ置く |
| 冷却中のヒステリシス | 加熱時と冷却時で値が一致しない | グラフにずれが生じる | 加熱・冷却の両方を測定する |
| 材料の不均一性 | 局所的に膨張係数が異なる | 温度と長さ変化の関係が乱れる | 均質な試料を用いる |
| 線膨張係数の温度依存性 | 係数が測定範囲内で一定ではない | グラフがわずかに曲線になる | 狭い温度範囲で評価する |
| 単位換算ミス | mmとmを混同する | 結果が1000倍ずれる | 計算前にSI単位へ統一する |
温度と長さ変化が比例する理由
温度範囲が狭く、線膨張係数がほぼ一定とみなせる場合、長さ変化は ΔL = αL0ΔT で表されます。
試料の材質と初期長さが一定なら、長さ変化は温度変化に比例します。そのため、温度変化と長さ変化のグラフは原点付近を通る直線になります。
長い試料ほど伸びが大きい理由
熱膨張は試料全体で生じるため、同じ材質、同じ温度変化であれば、初期長さが長いほど長さ変化も大きくなります。
材料によって膨張の大きさが異なる理由
物質によって原子間結合の強さやポテンシャルエネルギーの形が異なるため、温度上昇による平均原子間隔の増加量も異なります。
一般に、原子間結合が強く、温度変化による原子間隔の変化が小さい材料ほど、線膨張係数は小さくなります。
穴も加熱すると大きくなる理由
穴の開いた板を均一に加熱すると、板全体が相似的に拡大すると考えられます。そのため、穴の部分も材料で満たされていると仮定した場合と同じように大きくなります。
結果の書き方の例
初期長さ0.5000 mのアルミニウム棒を20.0 ℃から80.0 ℃まで加熱し、変位計を用いて長さ変化を測定した。
温度変化は60.0 K、長さ変化は0.690 mmであった。これらの値を線膨張の式へ代入した結果、線膨張係数は2.30 × 10−5 K−1と求められた。
アルミニウムの参考値2.31 × 10−5 K−1に対する相対誤差は0.43%であった。
考察につなげるポイント
- 温度変化と長さ変化は比例したか。
- グラフは原点付近を通る直線になったか。
- 求めた線膨張係数は参考値に近かったか。
- 試料全体の温度は均一であったか。
- 変位計のゼロ点と接触状態は適切だったか。
- 支持台や治具の熱膨張を無視できたか。
- 試料の固定端にすべりはなかったか。
- 加熱時と冷却時の値は一致したか。
- 初期長さとしてどの区間を用いたか。
- 温度計の位置は試料の代表温度を示していたか。
- 線膨張係数の温度依存性は無視できたか。
- 長さの単位を正しく換算できたか。
考察例
本実験では、アルミニウム棒を加熱し、温度変化と長さ変化から線膨張係数を求めた。
初期長さ0.5000 mの試料を20.0 ℃から80.0 ℃まで加熱したところ、長さは0.690 mm増加した。温度変化60.0 Kを用いて計算した結果、線膨張係数は2.30 × 10−5 K−1となった。
この値はアルミニウムの参考値2.31 × 10−5 K−1に近く、相対誤差は0.43%であった。したがって、測定結果はアルミニウムの線膨張係数として妥当な範囲にあると考えられる。
温度変化と長さ変化のグラフはほぼ直線となった。線膨張の式 ΔL = αL0ΔT より、材質と初期長さが一定で、線膨張係数が温度範囲内で一定なら、長さ変化は温度変化に比例する。
グラフの切片が完全に0とならなかった場合、その原因として変位計のゼロ点ずれ、試料の取り付け時の予圧、初期温度の読み取り誤差などが考えられる。
線膨張係数を正確に求めるためには、試料全体が測定温度へ達している必要がある。しかし、加熱直後には試料の端部と中央部で温度差が残る場合がある。
試料の一部だけが高温になっているのに、温度計の値を試料全体の温度として用いると、実際の平均温度変化を過大評価する可能性がある。その場合、分母の温度変化が大きくなるため、線膨張係数を小さく求める。
また、変位計が接触している支持台や固定具も加熱されると、試料以外の膨張が測定値へ含まれる可能性がある。支持台が試料と同じ方向へ伸びる場合には、見かけの長さ変化が大きくなり、線膨張係数を大きく求めることがある。
反対に、固定端がすべった場合や試料がわずかに曲がった場合には、試料の軸方向の伸びが変位計へ完全に伝わらず、線膨張係数を小さく求める可能性がある。
温度計の応答遅れも誤差原因となる。試料温度がすでに上昇しているのに温度計の表示が遅れている場合、温度変化を小さく読み、線膨張係数を大きく計算する可能性がある。
加熱時と冷却時の測定値が一致しない場合には、装置の摩擦、固定部のすべり、温度計と試料の応答時間の違い、材料の内部応力などが考えられる。
測定精度を高めるには、試料を十分な時間加熱して温度を均一にすること、複数箇所の温度を測定すること、支持部の膨張を校正すること、変位計のゼロ点と接触状態を測定前後に確認することが有効である。
さらに、1つの温度差だけから係数を求めるよりも、複数の温度における長さ変化を測定し、グラフの傾きから求める方が、読み取り誤差の影響を小さくできる。
以上より、アルミニウム棒の長さは温度上昇に伴ってほぼ比例的に増加し、線膨張係数を求めることができた。結果と参考値との差には、試料の温度むら、支持部の膨張、変位計のゼロ点、固定端のすべりなどが影響したと考えられる。
線膨張係数が参考値より大きかった場合の考察例
線膨張係数が参考値より大きくなった原因として、支持台や治具の熱膨張が測定値へ加わったこと、温度計の応答遅れによって温度変化を小さく読んだこと、初期長さを実際より短く測定したことなどが考えられる。
線膨張係数が参考値より小さかった場合の考察例
線膨張係数が参考値より小さくなった原因として、試料全体が測定温度へ達しておらず温度変化を過大評価したこと、固定端がすべったこと、試料が曲がって軸方向の伸びが十分に測定されなかったことなどが考えられる。
温度と長さ変化のグラフが直線にならなかった場合の考察例
グラフが直線にならなかった原因として、各測定時に試料が熱平衡へ達していなかったこと、試料内部に温度むらがあったこと、線膨張係数が温度によって変化したこと、変位計の接触状態が測定中に変化したことなどが考えられる。
加熱時と冷却時で値が異なった場合の考察例
加熱時と冷却時で長さ変化が一致しなかった原因として、温度計と試料の応答時間の違い、固定部の摩擦、試料や治具の熱履歴、冷却時の温度むらなどが考えられる。加熱と冷却をゆっくり行い、各温度で十分に安定させて測定する必要がある。
まとめ
熱膨張の測定では、試料の初期長さ、温度変化、長さ変化から、線膨張係数を求めます。
温度範囲が狭く、線膨張係数が一定とみなせる場合、長さ変化は温度変化および初期長さに比例します。
考察では、試料の温度むら、支持部や治具の膨張、変位計のゼロ点、固定端のすべり、温度計の応答遅れなどを、実験値が参考値より大きいか小さいかと関連づけて説明することが重要です。
