呼吸速度の実験では、生物が一定時間内に消費した酸素量、放出した二酸化炭素量、または生じた熱量などを測定し、呼吸の進み方を比較します。
学校や大学の実験では、発芽種子を密閉容器へ入れ、呼吸によって消費された酸素量をレスピロメーターで測定する方法がよく用いられます。温度、試料の質量、発芽状態、生物種などの条件を変えることで、呼吸速度に影響する要因を調べることができます。
呼吸では、有機物が酸素を用いて分解され、生命活動に利用されるエネルギーが取り出されます。好気呼吸では、主にグルコースと酸素から二酸化炭素、水、ATPが生じます。
グルコース + 酸素 → 二酸化炭素 + 水 + エネルギー
この記事では、発芽エンドウ種子を用いたレスピロメーター法を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。
注意:
この記事は、学校や大学などの生物実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の結果ではありません。
二酸化炭素吸収剤として水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ソーダ石灰などを使用する場合は、皮膚や目に触れないよう十分注意してください。
吸収剤を生物試料へ直接触れさせず、ガラスウールや脱脂綿などで隔離します。実際の操作は実験書および担当教員の指示に従ってください。
呼吸速度の基本
好気呼吸
好気呼吸では、酸素を用いて有機物を分解し、ATPを合成します。主な反応は解糖系、クエン酸回路、電子伝達系からなり、ミトコンドリアが重要な役割を果たします。
レスピロメーター法
密閉した装置内で生物が呼吸すると、酸素が消費され、二酸化炭素が放出されます。二酸化炭素を吸収剤で除くと、気体の総量が減少します。
この気体量の減少によって生じる圧力差を、毛細管内の液滴移動量などとして測定し、酸素消費量を推定します。
対照区の役割
温度や気圧の変化だけでも、装置内の気体体積や液滴位置は変化します。そのため、呼吸しないガラスビーズや加熱処理した種子を入れた対照区を設け、装置由来の変化を補正します。
結果に記録する主な項目
- 使用した生物材料
- 発芽の有無
- 試料数
- 試料の生質量または乾燥質量
- 試料体積
- 対照区の内容
- 二酸化炭素吸収剤の種類と量
- 測定温度
- 恒温化時間
- 測定時間
- 毛細管の内径
- 液滴の初期位置
- 液滴の最終位置
- 液滴移動距離
- 対照補正後の移動距離
- 酸素消費体積
- 単位時間あたりの呼吸速度
- 単位質量あたりの呼吸速度
- 各温度での平均値
- 標準偏差
- 温度係数Q10
参考実験条件
| 項目 | 参考条件 |
|---|---|
| 生物材料 | 発芽エンドウ種子 |
| 試料質量 | 各5.0 g |
| 対照区 | 発芽種子と同体積のガラスビーズ |
| 二酸化炭素吸収剤 | 10%水酸化カリウム水溶液 |
| 毛細管内径 | 1.0 mm |
| 測定温度 | 10、20、30、40 ℃ |
| 恒温化時間 | 10分 |
| 測定時間 | 20分 |
| 反復数 | 各温度3回 |
参考実験値
温度別の液滴移動距離
| 温度(℃) | 試験区(mm/20分) | 対照区(mm/20分) | 補正移動距離(mm/20分) |
|---|---|---|---|
| 10 | 18.2 | 1.0 | 17.2 |
| 20 | 36.8 | 1.2 | 35.6 |
| 30 | 68.5 | 1.5 | 67.0 |
| 40 | 49.0 | 1.8 | 47.2 |
反復測定例
| 温度(℃) | 1回目(mm) | 2回目(mm) | 3回目(mm) | 平均(mm/20分) |
|---|---|---|---|---|
| 10 | 16.8 | 17.5 | 17.3 | 17.2 |
| 20 | 34.9 | 36.1 | 35.8 | 35.6 |
| 30 | 65.8 | 68.4 | 66.8 | 67.0 |
| 40 | 45.9 | 48.3 | 47.4 | 47.2 |
酸素消費量と呼吸速度
| 温度(℃) | 酸素消費量(mL/20分) | 呼吸速度(mL O₂/h) | 単位質量あたり(mL O₂/g・h) |
|---|---|---|---|
| 10 | 0.0135 | 0.0405 | 0.0081 |
| 20 | 0.0280 | 0.0840 | 0.0168 |
| 30 | 0.0526 | 0.1578 | 0.0316 |
| 40 | 0.0371 | 0.1113 | 0.0223 |
発芽状態による比較
| 試料 | 質量(g) | 酸素消費量(mL/30分) | 単位質量あたり呼吸速度(mL O₂/g・h) |
|---|---|---|---|
| 発芽種子 | 5.0 | 0.080 | 0.0320 |
| 吸水種子 | 5.0 | 0.041 | 0.0164 |
| 乾燥種子 | 5.0 | 0.009 | 0.0036 |
| 加熱処理種子 | 5.0 | 0.002 | 0.0008 |
時間経過の参考値
| 経過時間(分) | 累積補正移動距離(mm) |
|---|---|
| 0 | 0.0 |
| 5 | 16.5 |
| 10 | 33.2 |
| 15 | 50.4 |
| 20 | 67.0 |
計算方法
対照区による補正
30 ℃で試験区の液滴が68.5 mm、対照区が1.5 mm移動した場合は、次のようになります。
補正移動距離 = 試験区の移動距離 − 対照区の移動距離
= 68.5 − 1.5
= 67.0 mm
毛細管断面積
毛細管の内径が1.0 mmの場合、半径は0.5 mmです。
断面積 = πr2
= 3.14 × 0.52
= 0.785 mm²
酸素消費体積
補正移動距離が67.0 mm、毛細管断面積が0.785 mm²の場合は、次のようになります。
酸素消費体積 = 毛細管断面積 × 補正移動距離
= 0.785 × 67.0
= 52.6 mm³
1 mL = 1000 mm³であるため、次のように換算します。
52.6 mm³ ÷ 1000 = 0.0526 mL
1時間あたりの呼吸速度
20分間に0.0526 mLの酸素を消費した場合は、次のようになります。
呼吸速度 = 酸素消費量 ÷ 測定時間
= 0.0526 mL ÷ (20/60 h)
= 0.1578 mL O₂/h
単位質量あたりの呼吸速度
試料質量が5.0 gの場合は、次のようになります。
単位質量あたりの呼吸速度 = 0.1578 ÷ 5.0
= 0.0316 mL O₂/(g・h)
平均値
30 ℃の補正移動距離が65.8、68.4、66.8 mmであった場合は、次のようになります。
平均 = (65.8 + 68.4 + 66.8) ÷ 3
= 67.0 mm
標準偏差
s = √{Σ(xi − x̄)2/(n − 1)}
30 ℃の65.8、68.4、66.8 mmから求めた標準偏差は、約1.31 mmです。
温度係数Q10
Q10は、温度が10 ℃上昇したときに反応速度が何倍になるかを示す値です。
Q10 = R2 ÷ R1
20 ℃で0.0168 mL O₂/(g・h)、30 ℃で0.0316 mL O₂/(g・h)の場合は、次のようになります。
Q10 = 0.0316 ÷ 0.0168
≈ 1.88
一般式によるQ10
温度差が10 ℃でない場合は、次の式を用います。
Q10 = (R2/R1)10/(T2−T1)
発芽種子と乾燥種子の速度比
速度比 = 発芽種子の呼吸速度 ÷ 乾燥種子の呼吸速度
= 0.0320 ÷ 0.0036
≈ 8.9倍
主な誤差原因
| 誤差原因 | 測定への影響 | 結果に現れやすい傾向 | 改善方法 |
|---|---|---|---|
| 装置の気密性不足 | 外気が出入りする | 液滴移動が小さくなる、または不規則になる | 栓や接続部を確実に密閉する |
| 温度が一定でない | 気体体積が膨張・収縮する | 呼吸以外の液滴移動が生じる | 恒温水槽を使用する |
| 恒温化時間不足 | 装置内温度が安定していない | 測定初期の値が大きくずれる | 測定前に十分静置する |
| 対照区を設けない | 温度・気圧変化を補正できない | 酸素消費量を誤って見積もる | 同体積のガラスビーズ区を設ける |
| 試料と対照の体積が異なる | 装置内の気相体積が異なる | 圧力変化の比較が不正確になる | ガラスビーズで体積をそろえる |
| 二酸化炭素吸収が不十分 | 放出CO₂が装置内に残る | 気体体積の減少を過小評価する | 十分な吸収剤を用いる |
| 吸収剤が試料へ接触 | 生物組織が損傷する | 呼吸速度が低下する | 脱脂綿などで隔離する |
| 毛細管内径の測定誤差 | 断面積計算がずれる | 酸素体積の換算値がずれる | 内径を正確に測定する |
| 液滴位置の読み取り誤差 | 移動距離が不正確になる | 測定値がばらつく | 目盛と視線を垂直にする |
| 液滴の蒸発や分裂 | 位置が不安定になる | 移動距離が不規則になる | 適切な液体を用い短時間で測定する |
| 装置の傾き | 重力で液滴が移動する | 一方向へ過大に移動する | 毛細管を水平に固定する |
| 種子の発芽状態が異なる | 代謝活性が異なる | 試料間で呼吸速度がばらつく | 発芽段階をそろえる |
| 試料質量が異なる | 呼吸する組織量が異なる | 質量の大きい区で値が大きくなる | 質量をそろえるか質量補正する |
| 種子表面の水分 | 生質量が過大になる | 単位質量あたり速度を過小評価する | 表面水を一定方法で除く |
| 酸素不足 | 測定後半に好気呼吸が低下する | 時間とともに傾きが小さくなる | 試料量と測定時間を適切にする |
| 測定時間が短い | 移動距離が小さい | 相対誤差が大きくなる | 検出可能な時間を設定する |
| 高温による試料損傷 | 酵素や膜が影響を受ける | 高温区で速度が低下する | 測定温度範囲を適切にする |
| 微生物の混入 | 種子以外の呼吸が加わる | 酸素消費量を過大評価する | 清潔な材料と器具を使用する |
温度が上がると呼吸速度が増加する理由
呼吸は多数の酵素反応から成り立っています。適度な範囲では、温度上昇によって分子運動と酵素反応速度が高まり、酸素消費速度が増加します。
高温で呼吸速度が低下する理由
温度が高すぎると、呼吸に関与する酵素の立体構造や細胞膜、ミトコンドリアの機能が損なわれます。そのため、最適温度を超えると呼吸速度は低下します。
発芽種子の呼吸速度が高い理由
発芽時には、細胞分裂、伸長、物質輸送、タンパク質合成などの生命活動が活発になります。これらに必要なATPを供給するため、貯蔵物質の分解と呼吸が盛んになります。
乾燥種子の呼吸速度が低い理由
乾燥種子では水分が少なく、酵素反応や物質輸送が抑えられ、休眠に近い低代謝状態にあります。そのため、発芽種子より酸素消費量が少なくなります。
加熱処理種子でもわずかな変化が出る理由
加熱処理種子は生きた呼吸をほとんど行いません。わずかな液滴移動が見られた場合は、温度や気圧変化、気密性不足、吸収剤の影響、読み取り誤差などによる可能性があります。
結果の書き方の例
発芽エンドウ種子5.0 gをレスピロメーターへ入れ、10~40 ℃で20分間の酸素消費量を測定した。
単位質量あたりの呼吸速度は、10 ℃で0.0081 mL O₂/(g・h)、20 ℃で0.0168 mL O₂/(g・h)、30 ℃で0.0316 mL O₂/(g・h)、40 ℃で0.0223 mL O₂/(g・h)であった。
呼吸速度は10 ℃から30 ℃まで温度上昇に伴って増加し、30 ℃で最大となったが、40 ℃では低下した。
20 ℃から30 ℃におけるQ10は約1.88であった。
また、30 ℃における発芽種子の単位質量あたり呼吸速度は、乾燥種子の約8.9倍であった。
考察につなげるポイント
- 温度と呼吸速度にはどのような関係があったか。
- 適温範囲で温度上昇により速度が増加したのはなぜか。
- 高温で速度が低下した理由は何か。
- 発芽種子と乾燥種子で速度が異なったのはなぜか。
- 二酸化炭素吸収剤を入れる目的は何か。
- 対照区を設ける必要があるのはなぜか。
- 液滴移動量から酸素消費量をどう求めたか。
- 試料質量や試料体積を補正する必要はなぜあるか。
- Q10は何を示しているか。
- 時間と液滴移動距離は直線関係にあったか。
- 酸素不足や二酸化炭素吸収不足は結果へどう影響するか。
- 装置の気密性や温度変化はどのような誤差を生むか。
考察例
本実験では、発芽エンドウ種子をレスピロメーターへ入れ、温度の違いが呼吸速度へ与える影響を調べた。
単位質量あたりの呼吸速度は、10 ℃で0.0081 mL O₂/(g・h)、20 ℃で0.0168 mL O₂/(g・h)、30 ℃で0.0316 mL O₂/(g・h)となり、10 ℃から30 ℃までは温度上昇に伴って増加した。
呼吸は解糖系、クエン酸回路、電子伝達系など、多数の酵素反応によって進む。適度な温度上昇により分子運動が活発になり、酵素と基質が衝突する頻度が増えたため、酸素消費速度が高くなったと考えられる。
20 ℃から30 ℃におけるQ10は約1.88であった。これは、この温度範囲では温度が10 ℃上昇すると呼吸速度が約1.9倍になったことを示す。
一方、40 ℃では呼吸速度が0.0223 mL O₂/(g・h)へ低下した。高温によって呼吸に関与する酵素、細胞膜、ミトコンドリアなどが影響を受け、反応が正常に進みにくくなった可能性がある。
したがって、呼吸速度は温度上昇とともに無制限に増えるのではなく、最適温度付近で最大となり、それを超えると低下すると考えられる。
発芽種子の呼吸速度は乾燥種子の約8.9倍であった。発芽種子では、幼根や幼芽の成長、細胞分裂、タンパク質合成、物質輸送などが活発であり、多量のATPが必要になる。
そのため、種子に蓄えられたデンプンや脂質などの貯蔵物質が分解され、呼吸による酸素消費が増加したと考えられる。
乾燥種子では水分が少なく、酵素反応が抑制された低代謝状態にあるため、呼吸速度が低かった。吸水種子では乾燥種子より高い値を示したことから、吸水によって酵素反応や代謝が再開したと考えられる。
レスピロメーター内では、生物が酸素を消費すると同時に二酸化炭素を放出する。二酸化炭素がそのまま残ると、酸素消費による気体量の減少が相殺される。
そこで水酸化カリウムによって二酸化炭素を吸収し、装置内の気体体積の減少を酸素消費量として測定した。
対照区でも液滴がわずかに移動した。この変化は、生物の呼吸ではなく、水槽温度、室温、気圧、装置の気密性などによるものと考えられる。
そのため、試験区の移動距離から対照区の移動距離を差し引くことで、呼吸による変化を補正する必要がある。
今回の時間経過では、0~20分の累積移動距離がほぼ一定の割合で増加した。このことから、測定時間内では酸素消費速度がおおむね一定であり、著しい酸素不足は起きていなかったと考えられる。
もし測定後半に移動速度が低下した場合は、装置内の酸素濃度低下、試料の乾燥、温度変化、二酸化炭素吸収剤の能力不足などを検討する必要がある。
誤差原因として、装置の気密性不足が挙げられる。接続部から外気が入ると、酸素消費による圧力低下が小さくなり、呼吸速度を過小評価する。
また、毛細管内径は酸素体積の計算に直接用いるため、内径の測定誤差は断面積に二乗で影響し、最終的な酸素消費量を大きくずらす可能性がある。
試料の生質量には表面に付着した水も含まれる。種子ごとに水分量が異なると、単位質量あたり呼吸速度の比較に誤差が生じるため、表面水の除去方法と吸水時間を統一する必要がある。
測定精度を高めるには、装置の気密性を事前に確認すること、試料質量と体積をそろえること、恒温水槽内で十分に順化すること、対照区を同時に測定すること、複数回の反復測定を行うことが重要である。
以上より、発芽種子の呼吸速度は適温範囲では温度上昇に伴って増加するが、高温では低下することが分かった。また、発芽に伴う活発な成長と代謝によって、発芽種子は乾燥種子より高い呼吸速度を示すことが確認された。
液滴がほとんど動かなかった場合の考察例
液滴がほとんど動かなかった原因として、試料の呼吸活性が低かったこと、二酸化炭素吸収が不十分だったこと、装置に空気漏れがあったこと、測定時間が短かったこと、温度が低すぎたことなどが考えられる。
対照区でも大きく移動した場合の考察例
対照区でも液滴が大きく移動した場合、恒温化不足、水槽温度や気圧の変化、装置の傾き、液滴の蒸発、気密性不足などが考えられる。対照補正値が大きい場合は、測定条件の安定性を見直す必要がある。
高温ほど速度が高くなり続けた場合の考察例
測定した温度範囲が試料の最適温度を超えていなかった可能性がある。また、温度区ごとの試料の発芽状態や質量が異なっていなかったか、恒温水槽の実温度が設定値と一致していたか確認する必要がある。
測定値のばらつきが大きかった場合の考察例
測定値のばらつきが大きかった原因として、種子の発芽段階、試料質量、表面水分、装置の気密性、毛細管の内径、恒温化時間、液滴位置の読み取りなどが反復ごとに異なっていた可能性がある。
まとめ
呼吸速度は、単位時間あたりの酸素消費量、二酸化炭素放出量、または熱発生量などによって表されます。
レスピロメーター法では、二酸化炭素を吸収して装置内の気体量を減少させ、毛細管内の液滴移動量から酸素消費量を求めます。
呼吸速度は、適温範囲では温度上昇に伴って増加しますが、高温では酵素や細胞構造が影響を受けて低下することがあります。
発芽種子は、成長や物質合成に多くのATPを必要とするため、乾燥種子より高い呼吸速度を示します。
考察では、温度、発芽状態、Q10、試料質量、二酸化炭素吸収、対照補正、気密性、恒温化、液滴の読み取りなどを、測定値の変化やばらつきと関連づけて説明することが重要です。
