プランク定数の測定実験は、光のエネルギーが連続的ではなく、一定の単位でやり取りされることを確認する実験です。
光子1個のエネルギーは、光の周波数に比例し、その比例定数がプランク定数です。プランク定数は量子力学の基礎となる物理定数であり、光電効果、原子スペクトル、半導体、黒体放射などの説明に用いられます。
学校や大学の実験では、発光ダイオード(LED)の発光開始電圧と発光波長を測定し、電子が失う電気エネルギーと放出される光子のエネルギーを比較する方法がよく用いられます。
この記事では、複数色のLEDについて発光開始電圧を測定し、周波数との関係からプランク定数を求める実験を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。
注意:
この記事は、学校や大学などの物理実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の測定結果ではありません。
LEDには極性があり、過大な電流を流すと破損することがあります。必ず適切な抵抗を接続し、電源電圧と電流の上限を確認してください。高輝度LEDや紫外LEDを直接見ないでください。実際の操作は所属学校の実験書、担当教員、TAの指示に従ってください。
プランク定数とは
プランク定数は、光子のエネルギーと周波数を結びつける比例定数です。
E = hν
ここで、Eは光子1個のエネルギー、hはプランク定数、νは光の周波数です。
プランク定数の定義値は次の通りです。
h = 6.62607015 × 10−34 J·s
現在の国際単位系では、プランク定数はこの値に正確に定義されています。
LEDを用いた測定原理
LEDへ順方向電圧を加えると、半導体内の電子と正孔が再結合し、そのエネルギー差に対応する光を放出します。
電子1個が電圧Vによって得る電気エネルギーは、次の式で表されます。
E = eV
ここで、eは電気素量です。
理想的には、LEDの発光開始電圧V0における電子の電気エネルギーが、放出光子のエネルギーに対応すると考えます。
eV0 ≈ hν
光の周波数は、波長から次の式で求められます。
ν = c/λ
これらを組み合わせると、次の関係が得られます。
V0 ≈ (h/e)ν
発光開始電圧を縦軸、周波数を横軸にしてグラフを作ると、理想的には直線となります。その傾きをaとすると、プランク定数は次の式で求められます。
h = ea
発光開始電圧の決め方
LEDは、ある電圧を境に突然完全発光するわけではありません。低電圧でもごく小さな電流が流れ、発光強度は連続的に増加します。
そのため、発光開始電圧には複数の決定方法があります。
- 暗室で目視により発光を確認した電圧
- 電流が一定値に達したときの電圧
- 電流-電圧特性の直線部分を外挿した切片
- 光センサ出力が背景値を超えたときの電圧
目視法は簡単ですが、観察者の視覚感度やLEDの色による感度差の影響を受けます。精度を高めるには、電流-電圧特性の外挿法や光センサを用いる方法が適しています。
結果に記録する主な項目
- LEDの発光色
- LEDの型番
- 中心波長またはピーク波長
- 波長の測定方法
- 周波数
- 発光開始電圧
- 発光開始電流
- 直列抵抗
- 電源電圧
- 電流-電圧特性
- 発光開始電圧と周波数のグラフ
- 回帰直線の傾き
- 回帰直線の切片
- プランク定数
- 参考値に対する相対誤差
- 電圧計の分解能
- 室温
- 発光開始電圧の判定方法
参考実験条件
| 項目 | 参考条件 |
|---|---|
| 使用LED | 赤、橙、黄、緑、青 |
| 直列抵抗 | 330 Ω |
| 電源 | 可変直流電源 |
| 電圧測定範囲 | 0~5 V |
| 電圧計分解能 | 0.01 V |
| 電流計分解能 | 0.01 mA |
| 発光開始電圧の判定 | I-V特性の直線部を外挿 |
| 波長 | LED仕様値または分光器測定値 |
| 室温 | 23 ℃ |
参考実験値
LEDの波長・周波数・発光開始電圧
| 発光色 | 波長λ(nm) | 周波数ν(1014 Hz) | 発光開始電圧V0(V) |
|---|---|---|---|
| 赤 | 635 | 4.72 | 1.54 |
| 橙 | 605 | 4.96 | 1.64 |
| 黄 | 590 | 5.08 | 1.69 |
| 緑 | 525 | 5.71 | 1.95 |
| 青 | 470 | 6.38 | 2.23 |
赤色LEDの電流-電圧特性の例
| LED電圧(V) | 電流(mA) |
|---|---|
| 1.30 | 0.01 |
| 1.40 | 0.03 |
| 1.50 | 0.10 |
| 1.60 | 0.45 |
| 1.70 | 1.20 |
| 1.80 | 2.45 |
| 1.90 | 4.10 |
繰り返し測定の例
| LED | 1回目(V) | 2回目(V) | 3回目(V) | 平均(V) |
|---|---|---|---|---|
| 赤 | 1.53 | 1.54 | 1.55 | 1.54 |
| 橙 | 1.63 | 1.64 | 1.65 | 1.64 |
| 黄 | 1.68 | 1.69 | 1.70 | 1.69 |
| 緑 | 1.94 | 1.95 | 1.96 | 1.95 |
| 青 | 2.22 | 2.23 | 2.24 | 2.23 |
計算方法
波長から周波数への換算
赤色LEDの波長を635 nm、光速を3.00 × 108 m/sとします。
ν = c/λ
= (3.00 × 108)/(635 × 10−9)
= 4.72 × 1014 Hz
LEDに与えられる電子1個あたりのエネルギー
赤色LEDの発光開始電圧が1.54 Vの場合は、次のようになります。
E = eV0
= (1.602 × 10−19) × 1.54
= 2.47 × 10−19 J
光子エネルギー
参考値のプランク定数を用いると、波長635 nmの光子エネルギーは次のようになります。
E = hc/λ
= (6.626 × 10−34) × (3.00 × 108)/(635 × 10−9)
= 3.13 × 10−19 J
LEDの発光開始電圧から求めた電気エネルギーと光子エネルギーが完全には一致しないのは、LED内部の電圧降下や非放射再結合などの影響があるためです。
回帰直線の傾きからプランク定数を求める
発光開始電圧と周波数のグラフを直線近似し、傾きが4.10 × 10−15 V·sであったとします。
V0 = aν + b
a = h/e
h = ea
= (1.602 × 10−19) × (4.10 × 10−15)
= 6.57 × 10−34 J·s
2点から傾きを求める場合
赤色LEDと青色LEDの値だけを用いる場合は、次のようになります。
a = (V2 − V1)/(ν2 − ν1)
= (2.23 − 1.54)/{(6.38 − 4.72) × 1014}
= 4.16 × 10−15 V·s
h = ea
= (1.602 × 10−19) × (4.16 × 10−15)
= 6.66 × 10−34 J·s
ただし、2点だけを用いると各測定値の誤差を強く受けるため、複数のLEDを用いた最小二乗法による回帰直線の方が適しています。
相対誤差
実験値6.57 × 10−34 J·s、参考値6.626 × 10−34 J·sの場合は、次のようになります。
相対誤差(%) = |実験値 − 参考値|/参考値 × 100
= |6.57 − 6.626|/6.626 × 100
= 0.85%
切片の意味
実際のLEDでは、発光開始電圧と周波数のグラフが原点を通らず、切片をもつ場合があります。
V0 = (h/e)ν + b
切片には、接合部の電位差、電極の接触電位、測定方法による一定の偏り、非放射過程などが反映されると考えられます。
主な誤差原因
| 誤差原因 | 測定への影響 | 結果に現れやすい傾向 | 改善方法 |
|---|---|---|---|
| 発光開始の目視判定 | 観察者によって判定が異なる | 電圧値のばらつきが大きくなる | I-V特性の外挿法を用いる |
| 人間の視感度の色依存性 | 青や赤を暗く感じやすい | 色ごとに発光開始電圧の判定基準が変わる | 光センサを用いる |
| LEDの波長幅 | 単一波長ではなく分布をもつ | 代表波長の選び方で周波数が変わる | 分光器でピーク波長を測定する |
| 仕様値と実際の波長の差 | 横軸の周波数がずれる | 回帰直線の傾きが変化する | 実際の発光スペクトルを測る |
| LEDの個体差 | 同色でも順方向電圧が異なる | 測定点が直線から外れる | 複数個を測定して平均する |
| 温度上昇 | 順方向電圧が低下する | 長時間通電後の電圧が小さくなる | 電流を小さくし、短時間で測定する |
| 電圧計の分解能 | 発光開始電圧を細かく読めない | 傾きの不確かさが大きくなる | 高分解能の電圧計を使う |
| 電圧計のゼロ点ずれ | 全電圧へ一定の偏りが加わる | 主に回帰直線の切片がずれる | 測定前に校正する |
| 接触抵抗 | 配線や端子で電圧降下が生じる | LED端子電圧を正しく測れない | LED両端の電圧を直接測定する |
| 抵抗値の誤差 | 電流とI-V特性の計算がずれる | 外挿による開始電圧が変化する | 実測した抵抗値を用いる |
| 非放射再結合 | 電気エネルギーの全てが光にならない | eVとhνが単純には一致しない | 回帰直線の傾きから評価する |
| 接合部以外の電圧降下 | 発光に直接寄与しない電圧が含まれる | グラフに切片が生じる | 複数点の回帰で傾きを求める |
| 測定点数不足 | 1点の誤差が傾きへ強く影響する | プランク定数の再現性が悪い | 発光色の異なるLEDを増やす |
| 周波数範囲が狭い | 傾きを正確に決めにくい | 相対誤差が大きくなる | 赤から青まで広い範囲を用いる |
周波数が高いLEDほど発光開始電圧が高い理由
周波数の高い光子ほど、光子1個あたりのエネルギーhνが大きくなります。青色光は赤色光より周波数が高いため、青色LEDではより大きなエネルギー差をもつ電子と正孔の再結合が必要です。
そのため、一般に青色LEDの発光開始電圧は、赤色LEDより高くなります。
発光開始電圧と周波数が直線関係になる理由
LED内で電子1個が得る電気エネルギーをeV、放出光子のエネルギーをhνとすると、両者はおおよそ比例します。
したがって、発光開始電圧は周波数に対して一次関数となり、その傾きはh/eに対応します。
グラフが原点を通らない理由
実際のLEDでは、加えた電圧の全てが光子エネルギーへ変換されるわけではありません。半導体接合部以外の電圧降下、接触電位差、非放射再結合、発光開始電圧の定義などが影響するため、回帰直線には切片が生じます。
目視法で色による誤差が生じる理由
人間の目は、波長によって感度が異なります。一般に黄緑色付近を明るく感じやすく、赤色や青色では同じ放射強度でも暗く感じることがあります。
そのため、目視で発光開始を判断すると、LEDの色によって判定基準が変わり、発光開始電圧に系統的な誤差が生じます。
結果の書き方の例
赤、橙、黄、緑、青の5種類のLEDについて、電流-電圧特性から発光開始電圧を求めた。
発光波長が短く、周波数が高くなるほど、発光開始電圧は大きくなった。発光開始電圧を縦軸、周波数を横軸にしてグラフを作成したところ、両者にはほぼ直線関係が認められた。
回帰直線の傾きは4.10 × 10−15 V·sであり、電気素量を用いて計算したプランク定数は6.57 × 10−34 J·sであった。
参考値6.626 × 10−34 J·sに対する相対誤差は0.85%であった。
考察につなげるポイント
- 発光開始電圧は周波数の増加とともに大きくなったか。
- 発光開始電圧と周波数のグラフは直線になったか。
- 回帰直線の傾きから求めたプランク定数は参考値に近かったか。
- グラフの切片は0になったか。
- 発光開始電圧をどの方法で決めたか。
- 目視判定による色ごとの感度差はなかったか。
- LEDの実際のピーク波長を用いたか。
- LEDの発光スペクトル幅を無視できたか。
- 測定中の温度上昇はなかったか。
- LED両端の電圧を直接測定したか。
- LEDの個体差はなかったか。
- 測定点数と周波数範囲は十分だったか。
- 2点計算と回帰直線のどちらが適切か。
考察例
本実験では、複数色のLEDについて発光開始電圧と発光波長を測定し、発光開始電圧と光の周波数の関係からプランク定数を求めた。
測定の結果、赤色から青色へ波長が短くなるほど、発光開始電圧は高くなった。赤色LEDの発光開始電圧は1.54 V、青色LEDでは2.23 Vであった。
光子1個のエネルギーはE = hνで表されるため、周波数の高い光ほど大きなエネルギーをもつ。LEDでは、電子と正孔の再結合によるエネルギー差が光子として放出されるため、周波数の高い青色光を発生させるには、赤色光より大きな電気エネルギーが必要になる。
発光開始電圧と周波数のグラフはほぼ直線となった。回帰直線の傾きは4.10 × 10−15 V·sであり、h = eaを用いて求めたプランク定数は6.57 × 10−34 J·sとなった。
この値は参考値6.626 × 10−34 J·sに近く、相対誤差は0.85%であった。したがって、LEDの発光開始電圧と周波数の関係から、プランク定数をおおよそ求められたと考えられる。
一方、回帰直線は完全には原点を通らなかった。理想的にeV = hνがそのまま成り立つなら原点を通るが、実際のLEDでは、加えた電圧の全てが光子エネルギーへ変換されるわけではない。
LED内部では、接合部以外の抵抗による電圧降下、接触電位差、格子振動へのエネルギー移動、非放射再結合などが存在する。そのため、発光開始電圧と周波数の関係には一定の切片が生じたと考えられる。
また、発光開始電圧の判定方法も誤差原因となる。目視で発光開始を判断した場合、人間の目は波長によって感度が異なるため、黄緑色LEDは低い光強度でも見えやすく、赤色や青色LEDは発光していても見えにくい場合がある。
この結果、色ごとに発光開始の判定基準が異なり、グラフの直線性や傾きへ影響する可能性がある。
本実験ではI-V特性の直線部分を外挿して発光開始電圧を求めたため、目視法より主観的な誤差を小さくできた。ただし、どの範囲を直線部分として選ぶかによって、切片の値が変化する可能性がある。
波長についてLEDの公称値を用いた場合、実際の発光ピーク波長と異なる可能性がある。また、LEDの発光は単一波長ではなく一定のスペクトル幅をもつため、代表波長の選び方によって周波数が変化する。
波長の誤差はグラフの横軸を変化させるため、回帰直線の傾きとプランク定数へ直接影響する。分光器を用いて各LEDのピーク波長を実測すれば、精度を高められる。
さらに、LEDの順方向電圧は温度上昇によって低下する。測定中に大きな電流を長時間流すとLEDが発熱し、後半の測定値が小さくなる可能性がある。
この影響を小さくするには、電流を必要以上に大きくしないこと、短時間で測定すること、各測定の間にLEDを冷却することが有効である。
2種類のLEDだけから傾きを求める方法では、各測定値の誤差が結果へ強く影響する。複数色のLEDを用い、最小二乗法による回帰直線から傾きを求めることで、個々の測定誤差の影響を小さくできる。
以上より、LEDの発光開始電圧は光の周波数とほぼ直線関係を示し、その傾きからプランク定数を求めることができた。参考値との差には、発光開始電圧の判定、LEDの波長幅、波長の公称値と実測値の差、温度上昇、接触電位差などが影響したと考えられる。
プランク定数が参考値より大きかった場合の考察例
プランク定数が参考値より大きくなった原因として、高周波側のLEDの発光開始電圧を大きく判定したこと、低周波側の電圧を小さく判定したこと、青色LEDの波長を実際より長く見積もって周波数を小さく計算したことなどが考えられる。
プランク定数が参考値より小さかった場合の考察例
プランク定数が参考値より小さくなった原因として、高周波側のLEDの発光開始電圧を小さく判定したこと、測定中の温度上昇によって青色LEDの順方向電圧が低下したこと、波長を実際より短く見積もったことなどが考えられる。
グラフが直線にならなかった場合の考察例
発光開始電圧と周波数のグラフが直線にならなかった原因として、LEDごとの構造や材質が異なること、発光開始電圧の判定基準が色ごとに変化したこと、公称波長と実際のピーク波長が異なったこと、LEDの個体差や温度差があったことなどが考えられる。
回帰直線が原点を通らなかった場合の考察例
回帰直線が原点を通らなかった原因として、接合部以外での電圧降下、接触電位差、非放射再結合、発光開始電圧の決定方法に由来する一定の偏りなどが考えられる。そのため、プランク定数は切片ではなく、回帰直線の傾きから求めることが重要である。
まとめ
プランク定数は、光子エネルギーと周波数の比例関係E = hνを表す物理定数です。
LEDを用いた実験では、発光開始電圧と光の周波数の関係をグラフにし、その傾きからプランク定数を求めます。
発光開始電圧は光の周波数が高いほど大きくなりますが、実際のLEDでは接触電位差、非放射再結合、温度変化などのため、回帰直線は必ずしも原点を通りません。
考察では、目視判定、波長幅、LEDの個体差、温度上昇、回帰方法などを、測定値が参考値からどのようにずれたかと関連づけて説明することが重要です。
