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浸透圧の考察例|ジャガイモの質量変化・等張濃度・誤差原因

浸透圧の実験では、濃度の異なる溶液に植物組織などを浸し、水の移動によって生じる質量や長さの変化を調べます。

代表的な実験材料には、ジャガイモ、ダイコン、ニンジンなどの植物組織が用いられます。植物細胞の細胞膜は半透膜として働き、水は通しやすい一方、溶質の一部は通しにくいため、細胞内外の濃度差に応じて水が移動します。

外液の溶質濃度が細胞液より低い場合、水は細胞内へ入り、組織の質量は増加します。反対に、外液の濃度が細胞液より高い場合、水は細胞外へ出て、組織の質量は減少します。

質量変化率が0%となる濃度は、実験条件下で植物組織と外液との間に正味の水移動がほとんどない濃度です。この濃度から、細胞液のおおよその等張濃度や浸透圧を推定できます。

この記事では、ジャガイモ片を濃度の異なるスクロース溶液へ浸す実験を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。

注意:

この記事は、学校や大学などの生物実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の測定結果ではありません。

コルクボーラー、カッター、メスなどを使用する場合は、刃先を自分や周囲の人へ向けず、切り傷に注意してください。

試料の大きさ、浸漬時間、溶液量、温度、表面の水分除去方法をそろえないと、結果を正しく比較できません。実際の操作は実験書および担当教員の指示に従ってください。

浸透と浸透圧

浸透

浸透とは、半透膜を隔てて濃度の異なる溶液があるとき、水などの溶媒が、溶質濃度の低い側から高い側へ正味として移動する現象です。

植物細胞では、細胞膜が選択的透過性を示します。外液の濃度が低いと水が細胞内へ入り、液胞が大きくなって膨圧が高まります。外液の濃度が高いと水が細胞外へ出て、細胞膜が細胞壁から離れる原形質分離が起こることがあります。

浸透圧

浸透圧とは、半透膜を通る溶媒の移動を止めるために必要な圧力です。希薄溶液では、理想的な条件を仮定すると、ファントホッフの式で近似できます。

π = iCRT

  • π:浸透圧
  • i:ファントホッフ係数
  • C:モル濃度
  • R:気体定数
  • T:絶対温度

スクロースは水中でほとんど電離しないため、学習用の計算では通常、i = 1として扱います。

結果に記録する主な項目

  • 使用した植物組織
  • 試料の採取部位
  • 試料の形状
  • 試料の直径・長さ・厚さ
  • 各溶液の種類
  • 各溶液の濃度
  • 各容器の溶液量
  • 浸漬時間
  • 実験温度
  • 浸漬前の質量
  • 浸漬後の質量
  • 質量変化量
  • 質量変化率
  • 各濃度の平均値
  • 標準偏差
  • 質量変化率が0%となる濃度
  • 推定浸透圧
  • 試料の硬さ、しなやかさ、外観の変化

参考実験条件

項目 参考条件
試料 ジャガイモ塊茎
試料形状 直径8 mm、長さ30 mmの円柱
反復数 各濃度3本
溶液 スクロース水溶液
濃度 0.00、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60 mol/L
溶液量 各50 mL
浸漬時間 60分
温度 25 ℃
表面処理 取り出した後、ろ紙で表面水分を軽く除去

参考実験値

濃度別の平均質量変化

スクロース濃度(mol/L) 浸漬前平均質量(g) 浸漬後平均質量(g) 質量変化量(g) 質量変化率(%)
0.00 2.50 2.78 +0.28 +11.2
0.10 2.48 2.69 +0.21 +8.5
0.20 2.52 2.63 +0.11 +4.4
0.30 2.49 2.52 +0.03 +1.2
0.40 2.51 2.43 −0.08 −3.2
0.50 2.50 2.30 −0.20 −8.0
0.60 2.47 2.17 −0.30 −12.1

0.30 mol/Lにおける反復測定例

試料 浸漬前質量(g) 浸漬後質量(g) 質量変化率(%)
1 2.46 2.50 +1.63
2 2.50 2.53 +1.20
3 2.51 2.53 +0.80
平均 2.49 2.52 +1.21

外観と硬さの変化

スクロース濃度 参考観察結果
0.00 mol/L 試料がやや硬くなり、張りが増した
0.10 mol/L 硬さがわずかに増した
0.20 mol/L 浸漬前と比べて少し硬くなった
0.30 mol/L 大きな変化は見られなかった
0.40 mol/L やや柔らかくなった
0.50 mol/L 柔らかく、曲がりやすくなった
0.60 mol/L しなびたようになり、張りが低下した

計算方法

質量変化量

0.20 mol/Lの溶液で、浸漬前2.52 g、浸漬後2.63 gであった場合は、次のようになります。

質量変化量 = 浸漬後質量 − 浸漬前質量

= 2.63 − 2.52

= +0.11 g

質量変化率

質量変化率(%) = (浸漬後質量 − 浸漬前質量) ÷ 浸漬前質量 × 100

= (2.63 − 2.52) ÷ 2.52 × 100

≈ +4.4%

平均質量変化率

0.30 mol/Lにおける3本の質量変化率が1.63%、1.20%、0.80%であった場合は、次のようになります。

平均 = (1.63 + 1.20 + 0.80) ÷ 3

= 1.21%

等張濃度の推定

質量変化率が0%になる濃度は、0.30 mol/Lで+1.2%、0.40 mol/Lで−3.2%の間にあります。2点間を直線と仮定して補間すると、次のようになります。

等張濃度 = 0.30 + {1.2 ÷ [1.2 + 3.2]} × (0.40 − 0.30)

= 0.30 + 0.0273

≈ 0.327 mol/L

したがって、この実験条件におけるジャガイモ組織の等張濃度は、約0.33 mol/Lと推定されます。

浸透圧の計算

等張濃度を0.327 mol/L、温度を25 ℃とします。スクロースではi = 1、気体定数を0.08206 L・atm/(mol・K)、絶対温度を298 Kとして計算します。

π = iCRT

= 1 × 0.327 × 0.08206 × 298

≈ 7.99 atm

1 atm = 101.325 kPaとして換算すると、次のようになります。

7.99 × 101.325

≈ 810 kPa

≈ 0.81 MPa

濃度と質量変化率の傾き

0.30~0.40 mol/Lの範囲で、濃度に対する質量変化率の傾きを求めると、次のようになります。

傾き = (−3.2 − 1.2) ÷ (0.40 − 0.30)

= −4.4 ÷ 0.10

= −44 %/(mol/L)

標準偏差

s = √{Σ(xi − x̄)2/(n − 1)}

0.30 mol/Lの質量変化率1.63%、1.20%、0.80%から求めた標準偏差は、約0.42%です。

主な誤差原因

誤差原因 測定への影響 結果に現れやすい傾向 改善方法
試料の大きさが不均一 表面積と体積の比が異なる 水の移動量が試料ごとに変わる 同じ直径・長さに切りそろえる
試料の採取部位が異なる 細胞液濃度や組織密度が異なる 等張濃度がばらつく 同じ個体の近い部位から採取する
皮が残っている 水の移動速度が変わる 質量変化が小さくなることがある 条件に応じて皮を均一に除く
切断時の細胞損傷 細胞内容物が漏出する 質量変化が浸透だけを反映しない 鋭い刃で素早く切る
表面水分の拭き取り不足 外液が質量に加わる 浸漬後質量を過大評価する 同じ方法・時間で軽く拭き取る
表面を強く拭きすぎる 組織内の水まで押し出す 浸漬後質量を過小評価する 圧力をかけずに表面のみ処理する
濃度調製の誤差 実際の外液濃度がずれる 等張濃度の推定がずれる 正確に秤量・定容する
溶液の取り違え 濃度と結果の対応が崩れる 濃度依存性が不規則になる 容器へ明確にラベルを付ける
溶液量不足 水の移動で外液濃度が変わる 高濃度・低濃度の差が小さくなる 試料に対して十分な溶液量を使う
浸漬時間の違い 平衡への到達度が異なる 質量変化量が比較できない 同時に開始・終了する
浸漬時間不足 十分な水移動が起こらない 質量変化率の絶対値が小さくなる 予備実験で適切な時間を決める
温度の違い 水分子の移動速度が変わる 実験ごとに結果が変わる 一定温度で実験する
蒸発 外液濃度が上昇する 質量減少が大きくなることがある 容器にふたをする
天びんの精度不足 小さな質量差を捉えにくい 0%付近の判定が不安定になる 適切な最小表示の天びんを使う
反復数不足 個体差の影響が大きい 平均値の信頼性が低い 各濃度で複数試料を測定する
直線補間の仮定 濃度と変化率が非線形の場合にずれる 等張濃度に推定誤差が生じる 0%付近の濃度間隔を細かくする

低濃度溶液で質量が増加する理由

外液の溶質濃度が細胞液より低い場合、外液側の水ポテンシャルが相対的に高くなります。そのため、水は細胞膜を通って細胞内へ移動し、液胞が膨らみ、組織の質量が増加します。

高濃度溶液で質量が減少する理由

外液の溶質濃度が細胞液より高い場合、水は細胞内から外液へ移動します。その結果、液胞の体積が小さくなり、細胞の膨圧が低下し、組織の質量も減少します。

低濃度で試料が硬くなる理由

水が細胞内へ入ると液胞が膨らみ、細胞膜が細胞壁を内側から押します。この圧力を膨圧といい、膨圧が高くなると植物組織は硬く、張りのある状態になります。

高濃度で試料が柔らかくなる理由

水が細胞外へ出ると膨圧が低下するため、細胞は張りを失います。その結果、ジャガイモ片などの植物組織は柔らかく、曲がりやすくなります。

質量変化率が0%でも水が動いていないとは限らない

質量変化率が0%であっても、水分子の移動が完全に停止したとは限りません。細胞内外で水の出入りが同程度となり、正味の質量変化が見られない動的平衡に近い状態と考えられます。

結果の書き方の例

ジャガイモ片を0.00~0.60 mol/Lのスクロース水溶液へ60分間浸漬し、浸漬前後の質量を測定した。

0.00~0.30 mol/Lでは質量が増加し、0.40~0.60 mol/Lでは質量が減少した。質量変化率は、0.00 mol/Lで+11.2%、0.30 mol/Lで+1.2%、0.40 mol/Lで−3.2%、0.60 mol/Lで−12.1%であった。

0.30 mol/Lと0.40 mol/Lの測定値を直線補間した結果、質量変化率が0%となる等張濃度は約0.33 mol/Lと推定された。

25 ℃における浸透圧をファントホッフの式で計算したところ、約0.81 MPaとなった。

考察につなげるポイント

  • 濃度が高くなると質量変化率はどのように変化したか。
  • 低濃度側で質量が増えた理由は何か。
  • 高濃度側で質量が減った理由は何か。
  • 質量変化率が0%となる濃度はどのように求めたか。
  • 等張濃度は細胞液の濃度とどのような関係にあるか。
  • 低濃度側と高濃度側で試料の硬さはどう変化したか。
  • 質量変化率が0%なら、水の移動は完全に止まっているか。
  • 濃度と質量変化率を直線と仮定してよい範囲はどこか。
  • 試料の大きさや採取部位は結果へどう影響したか。
  • 表面水分の除去方法は質量測定へどう影響したか。
  • 浸漬時間は十分だったか。
  • ファントホッフの式による値はどのような近似を含むか。

考察例

本実験では、濃度の異なるスクロース水溶液にジャガイモ片を浸し、浸透による質量変化を調べた。

0.00~0.30 mol/Lの溶液ではジャガイモ片の質量が増加し、0.40~0.60 mol/Lでは質量が減少した。濃度が高くなるにつれて質量変化率が低下したことから、外液と細胞液の濃度差によって水の移動方向が変化したと考えられる。

低濃度溶液では、外液の溶質濃度が細胞液より低かったため、水が細胞膜を通って細胞内へ移動した。その結果、液胞が膨らみ、組織全体の質量が増加した。

一方、高濃度溶液では、外液の溶質濃度が細胞液より高かったため、水が細胞外へ移動し、質量が減少した。

低濃度溶液に浸した試料は硬くなり、高濃度溶液に浸した試料は柔らかくなった。これは、水の出入りによって植物細胞の膨圧が変化したためである。

0.30 mol/Lでは質量変化率が+1.2%、0.40 mol/Lでは−3.2%であったため、正味の質量変化が0%となる濃度は、この2点の間にあると考えた。

2点間を直線と仮定して補間した結果、等張濃度は約0.327 mol/Lと推定された。この濃度では、ジャガイモ組織と外液との間で正味の水移動がほとんどないと考えられる。

ただし、質量変化率が0%であっても、水分子の移動が完全に停止したわけではない。細胞内外への水の移動量がほぼ等しくなった動的平衡に近い状態と考えられる。

等張濃度を用い、25 ℃における浸透圧をファントホッフの式で計算したところ、約0.81 MPaとなった。この値は、スクロース溶液を理想的な希薄溶液として扱い、スクロースが電離しないと仮定した近似値である。

実際の植物細胞では、細胞液中に複数の溶質が含まれ、細胞壁による圧力や溶質の膜透過性も影響する。そのため、計算値を細胞の真の浸透圧と完全に同一とみなすことはできない。

誤差原因として、試料の大きさと採取部位の違いが挙げられる。試料の表面積と体積の比が異なると、同じ時間でも水の移動量が変わる。また、ジャガイモ内部でも細胞液濃度や組織構造が均一とは限らない。

切断時に細胞が損傷すると、細胞内容物が外液へ漏れたり、通常とは異なる水移動が起こったりするため、質量変化が浸透だけを反映しなくなる可能性がある。

浸漬後に表面へ付着した溶液を十分に除去しなかった場合、付着液の質量が加わり、浸漬後質量を過大評価する。反対に、強く押さえて拭いた場合は組織内部の水まで除去し、質量を過小評価する可能性がある。

また、浸漬時間が短い場合には平衡へ十分に近づかず、各濃度における質量変化率の絶対値が小さくなる。この場合、等張濃度の推定精度も低下する。

等張濃度付近の測定点が0.30 mol/Lと0.40 mol/Lだけであったため、今回は2点間を直線補間した。しかし、濃度と質量変化率の関係が完全な直線とは限らないため、0.32、0.34、0.36 mol/Lなど、より細かな濃度で追加測定すると推定精度が高まる。

測定精度を高めるには、同じ個体の近い位置から試料を採取し、直径と長さをそろえること、各濃度で複数試料を測定すること、溶液量と浸漬時間を統一すること、表面水分を同じ方法で除去することが重要である。

以上より、ジャガイモ組織では、外液のスクロース濃度が低い場合に水を吸収し、高い場合に水を失うことが確認された。また、質量変化率が0%となる濃度から、組織の等張濃度と浸透圧を推定できることが分かった。

質量が増加しなかった場合の考察例

低濃度溶液でも質量が増加しなかった原因として、試料が乾燥または損傷していたこと、浸漬時間が短かったこと、低濃度溶液として調製した液の濃度が実際には高かったこと、浸漬後に試料を強く拭いたことなどが考えられる。

すべての濃度で質量が増加した場合の考察例

すべての濃度で質量が増加した場合、用いた濃度範囲が細胞液濃度より低かった可能性がある。また、表面に付着した溶液を十分に除去せず、浸漬後質量を過大評価した可能性も考えられる。

すべての濃度で質量が減少した場合の考察例

すべての濃度で質量が減少した場合、用いた溶液濃度が全体として高すぎたこと、試料が実験中に乾燥したこと、浸漬後の拭き取りが強すぎたこと、切断による細胞損傷で内容物が流出したことなどが考えられる。

濃度と質量変化率の関係が不規則だった場合の考察例

濃度と質量変化率の関係が不規則だった原因として、試料サイズや採取位置の違い、溶液の取り違え、濃度調製の誤差、浸漬時間の違い、表面水分の除去方法のばらつきなどが考えられる。

まとめ

浸透は、半透膜を隔てた濃度差によって、水が溶質濃度の低い側から高い側へ正味として移動する現象です。

植物組織を低濃度溶液へ浸すと水を吸収して質量と膨圧が増加し、高濃度溶液へ浸すと水を失って質量と膨圧が低下します。

質量変化率が0%となる濃度を求めることで、植物組織のおおよその等張濃度を推定できます。また、ファントホッフの式を用いることで、浸透圧の近似値を計算できます。

考察では、濃度と質量変化率の関係、膨圧による硬さの変化、等張濃度の求め方、試料サイズ、表面水分、浸漬時間、濃度調製などを、測定値のずれやばらつきと関連づけて説明することが重要です。