磁場測定の実験は、磁石、コイル、電磁石などが作る磁場を磁束計、ガウスメータ、ホールセンサなどで測定し、磁束密度の大きさと方向、位置による変化を調べる実験です。
磁場は目で直接見ることができませんが、磁束密度 B を測定することで、その強さを数値として比較できます。測定対象には、棒磁石、円形コイル、ソレノイド、ヘルムホルツコイルなどがあります。
理想的には、コイルが作る磁束密度は電流に比例します。また、磁石やコイルから離れるほど磁束密度は小さくなります。ただし、実際の測定ではセンサの向き、ゼロ点ずれ、地磁気、周辺の鉄製品、位置決め誤差などが影響します。
この記事では、ホールセンサを用いてコイルまたは磁石の磁束密度を測定する実験を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。
注意:
この記事は、学校や大学などの物理実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の測定結果ではありません。
強い磁石は、時計、磁気カード、電子機器、医療機器などへ影響を与える場合があります。電磁石やコイルには大きな電流が流れて発熱することがあるため、定格電流を超えず、通電中に素手で触れないでください。配線変更前には電源を切り、実際の操作は所属学校の実験書、担当教員、TAの指示に従ってください。
磁束密度とは
磁場の強さを表す代表的な物理量が磁束密度 B です。SI単位にはテスラ(T)を用います。
1 T = 103 mT = 106 μT
磁束密度には大きさだけでなく方向があります。ホールセンサでは、センサ面に垂直な磁場成分を測定するものが多く、センサの向きがずれると表示値が小さくなります。
磁場成分と角度
磁束密度 B とセンサの感度軸とのなす角を θ とすると、測定される成分は次のように表されます。
Bmeas = B cosθ
センサの感度軸と磁場方向が一致すると最大値を示し、直角になると理想的には0になります。
代表的な磁場の理論式
長いソレノイド内部の磁束密度
B = μ0nI
ここで、n は単位長さあたりの巻数、I はコイル電流です。
円形コイル中心の磁束密度
B = μ0NI/(2R)
ここで、N は巻数、R はコイル半径です。
ヘルムホルツコイル中心の磁束密度
B = (4/5)3/2 μ0NI/R
結果に記録する主な項目
- 測定対象の種類
- センサまたは磁束計の型式
- 測定レンジと分解能
- ゼロ点補正前後の値
- 磁場の方向とセンサの向き
- 測定位置
- 磁石またはコイルからの距離
- コイルの巻数と半径
- コイル電流
- 磁束密度の実測値
- 理論値
- 実測値と理論値の相対誤差
- 位置ごとの磁束密度分布
- 電流と磁束密度のグラフ
- 距離と磁束密度のグラフ
- 正方向と逆方向の測定値
- 地磁気または周辺磁場の値
- 繰り返し測定の平均値とばらつき
参考実験条件
| 項目 | 参考条件 |
|---|---|
| 測定対象 | 円形コイル |
| コイル巻数N | 200回 |
| コイル半径R | 0.100 m |
| コイル電流I | 0~1.00 A |
| 測定位置 | コイル中心および中心軸上 |
| 測定器 | ホール式ガウスメータ |
| 測定レンジ | ±20 mT |
| 室温 | 23 ℃ |
| 周辺磁場 | 約45 μT |
参考実験値
コイル電流と中心磁束密度
| 電流I(A) | 理論値B(mT) | 実測値B(mT) |
|---|---|---|
| 0.00 | 0.000 | 0.045 |
| 0.20 | 0.251 | 0.294 |
| 0.40 | 0.503 | 0.544 |
| 0.60 | 0.754 | 0.795 |
| 0.80 | 1.005 | 1.047 |
| 1.00 | 1.257 | 1.299 |
上の実測値には、約0.045 mTの周辺磁場が加わっている例を示しています。ゼロ点補正後は、実測値から0.045 mTを差し引きます。
ゼロ点補正後の磁束密度
| 電流I(A) | 補正後B(mT) | 理論値との差(mT) |
|---|---|---|
| 0.20 | 0.249 | −0.002 |
| 0.40 | 0.499 | −0.004 |
| 0.60 | 0.750 | −0.004 |
| 0.80 | 1.002 | −0.003 |
| 1.00 | 1.254 | −0.003 |
コイル中心軸上の位置と磁束密度
コイル電流を1.00 Aに一定とした場合の参考値です。
| 中心からの距離x(cm) | 実測磁束密度B(mT) |
|---|---|
| 0 | 1.254 |
| 2 | 1.184 |
| 4 | 1.006 |
| 6 | 0.790 |
| 8 | 0.594 |
| 10 | 0.444 |
| 12 | 0.334 |
センサ角度と測定値
磁束密度1.00 mTの一様磁場を測定した場合の参考値です。
| 角度θ(°) | 理論値Bcosθ(mT) | 実測値(mT) |
|---|---|---|
| 0 | 1.000 | 0.998 |
| 30 | 0.866 | 0.862 |
| 45 | 0.707 | 0.704 |
| 60 | 0.500 | 0.496 |
| 90 | 0.000 | 0.006 |
計算方法
円形コイル中心の理論磁束密度
巻数200回、半径0.100 m、電流1.00 Aの場合は、次のようになります。
B = μ0NI/(2R)
= (4π × 10−7) × 200 × 1.00 / (2 × 0.100)
= 1.257 × 10−3 T
= 1.257 mT
ゼロ点補正
電流0 Aで0.045 mT、電流1.00 Aで1.299 mTを示した場合は、次のようになります。
Bcorr = Bmeas − B0
= 1.299 − 0.045
= 1.254 mT
相対誤差
理論値1.257 mT、補正後実測値1.254 mTの場合は、次のようになります。
相対誤差(%) = |実測値 − 理論値| / 理論値 × 100
= |1.254 − 1.257| / 1.257 × 100
= 0.24%
電流と磁束密度の比例定数
ゼロ点補正後の磁束密度が、0.20 Aで0.249 mT、1.00 Aで1.254 mTであった場合は、傾きは次のようになります。
a = ΔB/ΔI
= (1.254 − 0.249)/(1.00 − 0.20)
= 1.256 mT/A
この値は、円形コイル中心の理論的な比例定数 μ0N/(2R) に対応します。
センサ角度の補正
センサが磁場方向から30°傾き、表示値が0.866 mTであった場合、磁場の大きさは次のように求められます。
B = Bmeas/cosθ
= 0.866/cos30°
= 1.00 mT
主な誤差原因
| 誤差原因 | 測定への影響 | 結果に現れやすい傾向 | 改善方法 |
|---|---|---|---|
| ゼロ点ずれ | 全測定値へ一定のオフセットが加わる | 電流0でも0以外を示す | 測定前後にゼロ点を確認する |
| 地磁気 | 対象磁場へ周辺磁場が加わる | 磁場方向によって値が変わる | 背景磁場を測定して差し引く |
| 周辺の鉄製品や磁石 | 磁場分布が乱れる | 位置を変えると値が不規則に変化する | 磁性体を装置から離す |
| センサの向きのずれ | 磁場の一成分だけを測定する | 実際より小さな値を示す | 最大値となる向きへ調整する |
| 測定位置のずれ | 磁束密度の異なる場所を測る | 再現性が低下する | 治具や目盛で位置を固定する |
| センサの有効測定点の誤認 | 表示位置と実際の検出位置が異なる | 距離依存性のグラフがずれる | 取扱説明書で感度位置を確認する |
| コイル電流の変動 | 磁束密度が時間とともに変化する | 測定値がばらつく | 定電流電源を使用する |
| コイルの発熱 | 抵抗増加によって電流が低下する | 長時間測定でBが小さくなる | 短時間で測定し電流を監視する |
| コイル半径の測定誤差 | 理論値の計算がずれる | 系統的な誤差になる | 有効半径を複数箇所で測る |
| 巻数の誤認 | 理論磁束密度が比例してずれる | 全条件で同じ割合の差が出る | 装置仕様を確認する |
| 磁束計の校正誤差 | 表示値が一定割合でずれる | 傾きが理論値と一致しない | 校正済み測定器を使用する |
| 分解能不足 | 微小な変化を区別できない | 低磁場域で段階的な値になる | 適切な測定レンジを選ぶ |
| 交流ノイズ | 表示値が揺れる | 平均値のばらつきが大きくなる | 配線を短くし平均化する |
| 磁気ヒステリシス | 同じ電流でも磁場が一致しない | 電流増加時と減少時で差が出る | 上昇・下降の両方を測定する |
コイル電流と磁束密度が比例する理由
コイルを流れる電流が大きくなると、各巻線が作る磁場も強くなります。コイルの形状と巻数が一定なら、磁束密度は電流に比例します。
中心から離れると磁束密度が小さくなる理由
コイル中心では各巻線が作る磁場が同じ方向に強く重なります。中心軸上でコイルから離れると、各巻線までの距離が大きくなり、磁場の重なりも弱くなるため、磁束密度は小さくなります。
測定前にゼロ点補正が必要な理由
測定器の内部オフセット、地磁気、周辺磁場などにより、対象装置へ電流を流していなくても0以外の値を示すことがあります。この値を差し引かないと、対象が作る磁場だけを正しく求められません。
センサの向きが重要な理由
多くのホールセンサは特定方向の磁場成分を測定します。磁場方向と感度軸がずれると、表示値は Bcosθ となるため、真の磁束密度より小さくなります。
結果の書き方の例
巻数200回、半径0.100 mの円形コイル中心にホールセンサを配置し、コイル電流を0~1.00 Aまで変化させて磁束密度を測定した。
電流0 Aで0.045 mTの周辺磁場が測定されたため、各測定値からこの値を差し引いて補正した。補正後の磁束密度は、0.20 Aで0.249 mT、0.60 Aで0.750 mT、1.00 Aで1.254 mTとなった。
磁束密度と電流のグラフはほぼ原点を通る直線となり、その傾きは1.256 mT/Aであった。電流1.00 Aにおける理論値1.257 mTに対する相対誤差は0.24%であった。
考察につなげるポイント
- 磁束密度はコイル電流に比例したか。
- グラフは原点を通る直線になったか。
- ゼロ点補正前後で結果はどのように変化したか。
- 中心から離れると磁束密度はどのように変化したか。
- 理論値と実測値は一致したか。
- センサの向きを変えると表示値はどう変化したか。
- 地磁気や周辺磁場は無視できたか。
- コイルの発熱や電流変動はなかったか。
- 測定位置のずれは結果へ影響したか。
- 磁束計の分解能と校正誤差は十分小さかったか。
- 電流増加時と減少時で差があったか。
- 磁場分布は理論的な対称性を示したか。
考察例
本実験では、円形コイルに流す電流を変化させ、コイル中心および中心軸上の磁束密度をホールセンサで測定した。
電流0 Aのときにも0.045 mTが測定されたため、この値を地磁気、周辺磁場、測定器のゼロ点ずれを含む背景磁場として各測定値から差し引いた。
ゼロ点補正後の磁束密度は、電流0.20 Aで0.249 mT、0.60 Aで0.750 mT、1.00 Aで1.254 mTとなり、電流の増加に伴ってほぼ直線的に増加した。
円形コイル中心の磁束密度は B = μ0NI/(2R) で表されるため、巻数と半径が一定であれば磁束密度は電流に比例する。実験結果はこの理論とおおむね一致した。
電流と磁束密度のグラフの傾きは1.256 mT/Aであり、理論的な比例定数1.257 mT/Aに近かった。電流1.00 Aにおける相対誤差は0.24%であり、比較的小さな誤差で測定できた。
コイル中心から軸方向へ離れると、磁束密度は徐々に小さくなった。コイル中心では各巻線が作る磁場が強く重なるが、中心から離れるほどコイルまでの距離が大きくなり、磁場の重なりが弱くなるためである。
センサの角度を変えた測定では、磁場方向と感度軸が一致したときに最大値を示し、90°に近づくほど表示値が小さくなった。この結果は、測定値が磁場の感度軸方向成分 Bcosθ に対応することを示している。
理論値と実測値の差が生じた原因として、センサの位置と向きのずれ、コイル半径の測定誤差、巻数の不確かさ、電流計と磁束計の校正誤差などが考えられる。
特にコイル中心付近では磁束密度の位置依存性が比較的小さいが、中心から外れると磁束密度が変化するため、センサの有効測定点を正確に中心へ置く必要がある。
また、コイルに長時間電流を流すと巻線が発熱し、抵抗が増加する。定電圧電源を用いた場合には電流が低下し、磁束密度も時間とともに小さくなる可能性がある。そのため、各測定時に電流を記録し、短時間で測定することが重要である。
地磁気は数十μT程度であり、今回のように1 mT前後の磁場を測定する場合でも、低電流域では無視できない割合となる。ゼロ点補正を行うことで、対象コイルが作る磁場をより正確に求められた。
周辺の鉄製机、工具、スピーカー、磁石なども磁場分布へ影響する可能性がある。再現性を高めるには、装置周辺から磁性体を離し、センサ位置と向きを治具で固定することが有効である。
以上より、円形コイル中心の磁束密度はコイル電流に比例し、中心から離れるほど小さくなることを確認できた。また、正確な磁場測定には、ゼロ点補正、センサの方向合わせ、位置決め、周辺磁場の管理が重要であることが分かった。
グラフが原点を通らなかった場合の考察例
磁束密度と電流のグラフが原点を通らなかった原因として、地磁気、周辺磁場、測定器のゼロ点ずれが考えられる。電流0 Aで背景磁場を測定し、その値を各測定値から差し引く必要がある。
高電流側で比例関係から外れた場合の考察例
高電流側で磁束密度が比例関係から外れた原因として、コイルの発熱による電流変動、電源の電流制限、鉄心を使用している場合の磁気飽和などが考えられる。各測定点で実際の電流を記録し、十分に冷却して再測定する必要がある。
測定値のばらつきが大きかった場合の考察例
測定値のばらつきが大きかった原因として、センサ位置と向きが測定ごとに変化したこと、外部の磁性体が移動したこと、交流ノイズや電源変動が加わったことなどが考えられる。センサを固定し、複数回測定した平均値を用いることが有効である。
実測値が理論値より小さかった場合の考察例
実測値が理論値より小さかった原因として、センサがコイル中心からずれていたこと、感度軸と磁場方向が一致していなかったこと、実際のコイル電流が表示値より小さかったこと、コイルの有効半径が想定より大きかったことなどが考えられる。
まとめ
磁場測定では、ホールセンサや磁束計を用いて磁束密度の大きさと方向を調べます。
コイルの形状と巻数が一定なら、中心の磁束密度は電流に比例します。また、コイルや磁石から離れるほど磁束密度は小さくなります。
考察では、ゼロ点補正、地磁気、センサの向き、位置決め、電流変動、コイルの発熱、測定器の校正などを理論式と関連づけて説明することが重要です。
