キルヒホッフの法則の実験は、複数の抵抗器や電源を含む回路について、分岐点を流れる電流と閉回路内の電圧の関係を測定し、電荷保存則とエネルギー保存則が成り立つことを確認する実験です。
単純な直列回路や並列回路では、オームの法則だけでも電流や電圧を比較的容易に求められます。しかし、複数の分岐や電源を含む回路では、各枝を流れる電流を未知数として、キルヒホッフの第1法則と第2法則から連立方程式を立てる必要があります。
この記事では、2つの閉回路が1本の共通枝をもつ直流回路を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。
注意:
この記事は、学校や大学などの物理実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の測定結果ではありません。
回路の配線を変更するときは必ず電源を切ってください。電流計を電源へ直接並列接続すると短絡状態になり、計器や電源を破損するおそれがあります。抵抗器の定格電力、電源の極性、計器の測定範囲を確認し、実際の操作は所属学校の実験書、担当教員、TAの指示に従ってください。
キルヒホッフの法則とは
キルヒホッフの法則には、分岐点における電流の関係を表す第1法則と、閉回路内の電圧の関係を表す第2法則があります。
キルヒホッフの第1法則
回路の分岐点へ流れ込む電流の総和は、分岐点から流れ出す電流の総和に等しくなります。
ΣIin = ΣIout
例えば、電流 I1 が分岐点へ流れ込み、I2 と I3 が流れ出す場合は、次のようになります。
I1 = I2 + I3
これは、分岐点に電荷が継続的に蓄積しないことを表しており、電荷保存則に基づいています。
キルヒホッフの第2法則
任意の閉回路を一周したとき、起電力と電圧降下を符号付きで足した総和は0になります。
ΣV = 0
電源の起電力を E、抵抗器での電圧降下を IR とすると、単純な閉回路では次のように表せます。
E − IR = 0
これは、回路を一周して元の位置へ戻ると電位も元の値へ戻ることを示しており、エネルギー保存則に基づいています。
符号の決め方
- 電流の向きは、計算を始める前に任意に仮定します。
- 抵抗器を仮定した電流方向へ進むと、電位は IR だけ低下します。
- 抵抗器を電流と逆向きに進むと、電位は IR だけ上昇します。
- 電源を負極から正極へ進むと、電位は E だけ上昇します。
- 電源を正極から負極へ進むと、電位は E だけ低下します。
計算結果の電流が負になった場合は、実際の電流が最初に仮定した方向と反対向きに流れていることを表します。
結果に記録する主な項目
- 使用した電源の起電力または端子電圧
- 各抵抗器の公称抵抗値
- 各抵抗器の実測抵抗値
- 回路図と各枝に仮定した電流方向
- 各枝を流れる電流
- 分岐点へ流れ込む電流の総和
- 分岐点から流れ出す電流の総和
- 各抵抗器の両端電圧
- 各閉回路における起電力の総和
- 各閉回路における電圧降下の総和
- 第1法則の残差
- 第2法則の残差
- 理論電流と実測電流の相対誤差
- 理論電圧と実測電圧の相対誤差
- 抵抗器の発熱や電源電圧の変化
- 電流計・電圧計の測定範囲と分解能
参考回路と実験条件
参考例では、上側の分岐点Aと下側の分岐点Bの間に3本の枝が並列に接続されている回路を考えます。
- 左枝:電源 E1 = 6.00 Vと抵抗 R1 = 100 Ω
- 中央枝:抵抗 R3 = 150 Ω
- 右枝:電源 E2 = 3.00 Vと抵抗 R2 = 220 Ω
電流の向きは、左枝の I1 と右枝の I2 が分岐点Aへ流れ込み、中央枝の I3 がAからBへ流れ出す向きとします。
| 項目 | 参考条件 |
|---|---|
| 電源E1 | 6.00 V |
| 電源E2 | 3.00 V |
| 抵抗R1 | 100 Ω |
| 抵抗R2 | 220 Ω |
| 抵抗R3 | 150 Ω |
| 抵抗器の許容差 | ±5% |
| 電流計 | デジタル電流計 |
| 電圧計 | デジタル電圧計 |
| 室温 | 23 ℃ |
参考実験値
理論値と実測値の比較
| 測定項目 | 理論値 | 実測値 | 相対誤差 |
|---|---|---|---|
| I1 | 30.4 mA | 30.1 mA | 0.99% |
| I2 | 2.01 mA | 2.05 mA | 1.99% |
| I3 | 32.4 mA | 32.1 mA | 0.93% |
| VR1 | 3.04 V | 3.01 V | 0.99% |
| VR2 | 0.442 V | 0.451 V | 2.04% |
| VR3 | 4.86 V | 4.82 V | 0.82% |
第1法則の確認
| 項目 | 測定値 |
|---|---|
| 分岐点Aへ流れ込む電流 I1 + I2 | 32.15 mA |
| 分岐点Aから流れ出す電流 I3 | 32.10 mA |
| 差 | 0.05 mA |
| 差の割合 | 約0.16% |
左側閉回路の第2法則
| 項目 | 測定値 |
|---|---|
| 電源E1 | 6.00 V |
| 抵抗R1の電圧降下 | 3.01 V |
| 抵抗R3の電圧降下 | 2.98 V |
| E1 − VR1 − VR3 | 0.01 V |
この表では、閉回路内で直接測った中央枝の電圧を2.98 Vとした例です。測定位置や電源極性により、各電圧の符号は回路図に合わせて定めます。
右側閉回路の第2法則
| 項目 | 測定値 |
|---|---|
| 電源E2 | 3.00 V |
| 抵抗R2の電圧降下 | 0.45 V |
| 共通枝の電位差 | 2.54 V |
| E2 − VR2 − 2.54 | 0.01 V |
実験では、どの端子間電圧を正として測ったかを明記し、回路を一周する方向に合わせて符号を付けます。
繰り返し測定例
| 測定回 | I1(mA) | I2(mA) | I3(mA) | I1 + I2 − I3(mA) |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 30.1 | 2.05 | 32.1 | 0.05 |
| 2回目 | 30.0 | 2.08 | 32.0 | 0.08 |
| 3回目 | 30.2 | 2.03 | 32.2 | 0.03 |
計算方法
第1法則から電流の式を立てる
分岐点Aへ I1 と I2 が流れ込み、I3 が流れ出すと仮定すると、次の式が得られます。
I1 + I2 = I3
左側閉回路の式
左側の閉回路を電源の負極から正極へ進み、抵抗器を電流方向へ進むとします。
E1 − R1I1 − R3I3 = 0
数値を代入すると、次のようになります。
6.00 − 100I1 − 150I3 = 0
右側閉回路の式
E2 − R2I2 − R3I3 = 0
数値を代入すると、次のようになります。
3.00 − 220I2 − 150I3 = 0
連立方程式を解く
第1法則から I3 = I1 + I2 とし、2つの閉回路の式へ代入します。
6.00 − 100I1 − 150(I1 + I2) = 0
3.00 − 220I2 − 150(I1 + I2) = 0
整理すると、次の連立方程式になります。
250I1 + 150I2 = 6.00
150I1 + 370I2 = 3.00
これを解くと、参考理論値は次のようになります。
I1 ≈ 30.4 mA
I2 ≈ 2.01 mA
I3 = I1 + I2 ≈ 32.4 mA
各抵抗器の電圧降下
VR1 = R1I1
= 100 × 0.0304
= 3.04 V
VR2 = R2I2
= 220 × 0.00201
= 0.442 V
VR3 = R3I3
= 150 × 0.0324
= 4.86 V
第1法則の残差
実測値が I1 = 30.1 mA、I2 = 2.05 mA、I3 = 32.1 mAの場合は、次のようになります。
残差 = I1 + I2 − I3
= 30.1 + 2.05 − 32.1
= 0.05 mA
第1法則の差の割合
差の割合(%) = |I1 + I2 − I3| / I3 × 100
= 0.05 / 32.1 × 100
= 約0.16%
第2法則の残差
左側閉回路で、電源電圧6.00 V、2つの電圧降下が3.01 Vと2.98 Vの場合は、次のようになります。
残差 = 6.00 − 3.01 − 2.98
= 0.01 V
理論値との相対誤差
I1 の理論値が30.4 mA、実測値が30.1 mAの場合は、次のようになります。
相対誤差(%) = |実測値 − 理論値| / 理論値 × 100
= |30.1 − 30.4| / 30.4 × 100
= 約0.99%
主な誤差原因
| 誤差原因 | 測定への影響 | 結果に現れやすい傾向 | 改善方法 |
|---|---|---|---|
| 抵抗器の許容差 | 実際の抵抗値が公称値と異なる | 理論電流と実測電流に系統差が生じる | 計算には実測抵抗値を用いる |
| 電源の内部抵抗 | 通電時の端子電圧が公称値より低下する | 実測電流が理論値より小さくなる | 通電中の端子電圧を実測する |
| 電流計の内部抵抗 | 測定する枝の抵抗が増加する | その枝の電流が小さくなる | 内部抵抗の小さい電流計を使用する |
| 電圧計の内部抵抗 | 測定対象へ並列な分流経路ができる | 枝電流や分岐点の電流関係へわずかに影響する | 内部抵抗の大きい電圧計を使用する |
| 導線や接点の抵抗 | 回路図にない電圧降下が生じる | 閉回路の電圧残差が大きくなる | 短い導線を使い、端子を確実に固定する |
| 接触不良 | 接触抵抗が不安定になる | 電流値が時間的に変動する | 端子やクリップを清掃し、配線を確認する |
| 抵抗器の発熱 | 抵抗値が測定中に変化する | 時間の経過とともに電流が変化する | 定格内で短時間測定し、必要に応じて冷却する |
| 電源電圧の変動 | 理論計算に用いた起電力と実際の電圧が異なる | 各枝の電流が同時にずれる | 各測定時に電源電圧も記録する |
| 計器の分解能 | 小さな電流や残差を正確に読めない | 小電流の枝で相対誤差が大きくなる | 適切な測定レンジを選択する |
| 電流方向・符号の誤り | 回路方程式が正しく立てられない | 不自然な電流値や電圧残差になる | 回路図に矢印と周回方向を明記する |
| 計器を挿入する位置の違い | 測定のたびに回路条件がわずかに変わる | 個別に測った電流の和が一致しにくい | 同時測定するか、同一条件を保つ |
| 数値の丸め | 途中計算で誤差が累積する | 理論上も残差が完全に0にならない | 途中計算では十分な桁数を保持する |
第1法則が成り立つ理由
分岐点へ流れ込む電流が流れ出す電流より大きい状態が続けば、分岐点へ電荷が蓄積し続けます。逆に流れ出す電流の方が大きければ、分岐点の電荷が減り続けます。
直流回路が定常状態にあるとき、分岐点の電荷は時間的に増減しないため、流入電流の総和と流出電流の総和は等しくなります。
第2法則が成り立つ理由
電荷が電源を通過すると電気エネルギーを受け取り、抵抗器を通過するとそのエネルギーを熱などへ変換します。
閉回路を一周して出発点へ戻ると、電位は元の値へ戻らなければなりません。そのため、電位上昇と電位降下の代数和は0になります。
電流が負になった場合の意味
回路方程式を立てる際の電流方向は、実際の方向が分からなくても任意に仮定できます。計算結果が負になった場合は、法則が成り立たなかったのではなく、実際の電流が仮定した矢印と逆向きであることを示します。
実測値で和が完全に一致しない理由
キルヒホッフの法則自体は、理想回路だけでなく実際の回路でも成立します。しかし、実験では計器の分解能、内部抵抗、電源電圧の変動、抵抗値の誤差などがあるため、測定値から計算した和には小さな残差が生じます。
したがって、単に0にならなかったと述べるのではなく、残差を測定値に対する割合で評価することが重要です。
結果の書き方の例
2つの閉回路が共通抵抗をもつ分岐回路を作成し、各枝の電流と各素子の両端電圧を測定した。
分岐点Aへ流れ込む電流は、左枝30.1 mAと右枝2.05 mAの合計32.15 mAであった。分岐点Aから流れ出す中央枝の電流は32.10 mAであり、両者の差は0.05 mA、差の割合は約0.16%であった。
左側閉回路では、電源電圧6.00 Vに対して各素子の電圧降下の合計は5.99 Vとなり、残差は0.01 Vであった。各枝の実測電流は理論値とおおむね一致した。
考察につなげるポイント
- 分岐点へ流れ込む電流と流れ出す電流は一致したか。
- 第1法則の残差と差の割合はいくらか。
- 各閉回路で起電力と電圧降下の総和は一致したか。
- 第2法則の残差はいくらか。
- 理論電流と実測電流はどの程度一致したか。
- 抵抗器の公称値と実測値の違いは結果へどう影響したか。
- 電源の内部抵抗と端子電圧低下は無視できたか。
- 電流計と電圧計の内部抵抗は回路へどう影響したか。
- 計器を挿入するたびに回路条件が変化していないか。
- 電流方向と閉回路の周回方向の符号は正しく扱えたか。
- 計算結果が負の電流となった場合、何を意味するか。
- 法則と測定値の不一致を、測定誤差としてどのように評価できるか。
考察例
本実験では、2つの閉回路が共通抵抗をもつ分岐回路について、各枝の電流と各素子の両端電圧を測定し、キルヒホッフの第1法則および第2法則を確認した。
分岐点Aへ流れ込む電流は、左枝の30.1 mAと右枝の2.05 mAの合計32.15 mAであった。一方、分岐点Aから流れ出す中央枝の電流は32.10 mAであった。
両者の差は0.05 mAであり、中央枝電流に対する割合は約0.16%であった。この差は測定器の分解能や電源電圧の微小変動を考慮すると小さく、分岐点へ流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和は実験誤差の範囲内で一致したと判断できる。
この結果は、定常状態の分岐点では電荷が蓄積せず、電荷保存則によりキルヒホッフの第1法則が成り立つことを示している。
また、左側閉回路では電源電圧6.00 Vに対し、抵抗器などによる電圧降下の合計は5.99 Vであり、残差は0.01 Vであった。右側閉回路でも、起電力と電圧降下の代数和は0に近い値となった。
閉回路を一周したときの電位上昇と電位降下がほぼ等しかったことから、キルヒホッフの第2法則が実験誤差の範囲内で成立したと考えられる。これは、電源から電荷へ与えられたエネルギーが、抵抗器などで消費されるエネルギーに等しいことを示している。
理論計算では、第1法則と2つの閉回路に対する第2法則から連立方程式を立てた。その結果、各枝の電流は約30.4 mA、2.01 mA、32.4 mAと求められ、実測値とおおむね一致した。
理論値と実測値の差が生じた主な原因として、抵抗器の実際の抵抗値が公称値と異なること、電源に内部抵抗があり通電時の端子電圧が変化したこと、電流計と電圧計にも内部抵抗があることが考えられる。
特に、電流計は回路へ直列に挿入されるため、その内部抵抗が各枝の合成抵抗を増加させる。これにより、計器を含まない理想回路から計算した電流より、実測電流がわずかに小さくなる可能性がある。
電圧計は内部抵抗が大きいものの無限大ではないため、測定対象と並列に接続するとわずかな分流が生じる。その電流を電流計が含めて測定する接続方法では、第1法則の確認値にも影響する可能性がある。
導線と端子にも小さな抵抗があり、回路図には示されていない電圧降下を生じさせる。接触不良がある場合は接触抵抗が時間的に変動し、各測定を別々に行ったときに電流の和が一致しにくくなる。
また、抵抗器の発熱により抵抗値が測定中に変化した可能性もある。電流の大きい共通枝では消費電力が比較的大きくなるため、長時間通電すると温度上昇の影響を受けやすい。
計算では電流の向きを任意に仮定できる。計算結果が負になった場合は、実際の電流が仮定した方向と逆向きであることを示すため、負の値を誤りとして絶対値へ直すのではなく、矢印の向きを修正して解釈する必要がある。
測定精度を高めるには、抵抗器の実測値と通電中の電源端子電圧を理論計算へ用いることが有効である。また、内部抵抗の小さい電流計と内部抵抗の大きい電圧計を使用し、各枝の電流をできるだけ同時に測定することが望ましい。
以上より、分岐点における電流の保存と閉回路における電圧の保存が測定誤差の範囲内で確認され、キルヒホッフの第1法則と第2法則が成立することを示すことができた。
第1法則の差が大きかった場合の考察例
流入電流と流出電流の差が大きくなった原因として、各電流を同時ではなく順番に測定した間に電源電圧や接触抵抗が変化したこと、電流計を挿入するたびに回路の抵抗条件が変化したこと、または電流の向きと符号を誤って記録したことが考えられる。
閉回路の電圧残差が大きかった場合の考察例
閉回路内の電圧の代数和が0から大きくずれた原因として、電源の公称値を用いて通電中の端子電圧を測定しなかったこと、導線や接点の電圧降下を含めていなかったこと、電圧計の極性または周回方向に対する符号を誤ったことが考えられる。
計算した電流が負になった場合の考察例
ある枝の電流が負の値になったのは、実際の電流が計算前に仮定した向きと反対方向へ流れていることを示している。キルヒホッフの法則では電流方向を任意に仮定できるため、負の結果そのものは計算ミスを意味しない。
まとめ
キルヒホッフの第1法則は、分岐点へ流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和が等しいことを表し、電荷保存則に基づいています。
第2法則は、閉回路を一周したときの電位変化の代数和が0になることを表し、エネルギー保存則に基づいています。
考察では、電流と電圧の残差を数値で評価し、抵抗器の許容差、電源と計器の内部抵抗、導線抵抗、発熱、符号の扱いなどを関連づけて説明することが重要です。
