ホール効果の実験は、電流を流した導体または半導体へ電流と垂直な向きに磁場を加えたとき、電流と磁場の両方に垂直な方向へ電圧が生じる現象を測定する実験です。
このとき生じる電圧をホール電圧といいます。ホール電圧の大きさと極性を調べることで、試料中の主な電荷担体が電子であるか正孔であるかを判定し、ホール係数やキャリア密度を求めることができます。
理想的な条件では、ホール電圧は試料電流および磁束密度に比例し、試料の厚さに反比例します。ただし、実際の測定では電極の位置ずれ、試料の温度変化、磁場の不均一、ゼロ点電圧などが結果へ影響します。
この記事では、薄板状の半導体試料へ一定電流を流し、電磁石または永久磁石によって磁場を加える実験を想定し、導入、注意書き、結果項目、参考実験値、計算、誤差原因、結果文、考察例の順にまとめます。
注意:
この記事は、学校や大学などの物理実験で得られた結果を考察するための学習用参考資料です。掲載している実験条件と測定値は説明用の例であり、実際の測定結果ではありません。
電磁石やコイルには大きな電流が流れ、発熱する場合があります。電源の定格を超えないようにし、配線変更前には電源を切ってください。強い磁石は、電子機器、磁気カード、時計、医療機器などへ影響を与える場合があります。実際の操作は所属学校の実験書、担当教員、TAの指示に従ってください。
ホール効果とは
電荷 q をもつキャリアが速度 v で移動しているとき、磁束密度 B の磁場を加えると、キャリアにはローレンツ力が働きます。
F = qvB
電流方向と磁場方向が直交している場合、キャリアは試料の一方の側面へ偏ります。その結果、試料の両側面に電荷の偏りが生じ、横方向の電場と電位差が発生します。この電位差がホール電圧です。
ホール電圧
厚さ d の試料に電流 I を流し、電流と垂直な磁束密度 B を加えたとき、ホール電圧は次の式で表されます。
VH = RHIB/d
ここで、RH はホール係数です。
ホール係数
RH = VHd/(IB)
単一種類のキャリアだけが電気伝導へ寄与すると仮定した場合、ホール係数は次の式で表されます。
RH = 1/(nq)
電子を主なキャリアとするn型半導体では、電荷 q が負であるためホール係数も負になります。正孔を主なキャリアとするp型半導体では、ホール係数は正になります。
キャリア密度
ホール係数の絶対値から、単位体積あたりのキャリア数を求められます。
n = 1/(|q||RH|)
電気素量は次の値を用います。
e = 1.602 × 10−19 C
比例関係
試料の厚さとホール係数が一定なら、ホール電圧は次の関係を示します。
- 磁束密度が一定のとき、ホール電圧は試料電流に比例する。
- 試料電流が一定のとき、ホール電圧は磁束密度に比例する。
- 同じ材料では、試料が薄いほどホール電圧は大きくなる。
結果に記録する主な項目
- 試料の材料と伝導型
- 試料の厚さ、幅、長さ
- 試料電流
- 電磁石の励磁電流
- 磁束密度
- 磁場を加えていないときのゼロ点電圧
- 磁場を正方向へ加えたときのホール電圧
- 磁場を逆方向へ加えたときのホール電圧
- 電流を正方向へ流したときのホール電圧
- 電流を逆方向へ流したときのホール電圧
- 補正後のホール電圧
- ホール電圧と磁束密度のグラフ
- ホール電圧と試料電流のグラフ
- 各グラフの傾き
- ホール係数
- キャリアの符号
- キャリア密度
- 理論値または参考値との相対誤差
- 試料温度
参考実験条件
| 項目 | 参考条件 |
|---|---|
| 試料 | n型半導体 |
| 試料厚さd | 0.50 mm |
| 試料電流I | 10.0 mA |
| 磁束密度B | 0~0.50 T |
| 測定温度 | 25 ℃ |
| 測定器 | デジタルマルチメータまたは微小電圧計 |
| 参考ホール係数 | −6.25 × 10−4 m3/C |
| 参考キャリア密度 | 1.00 × 1022 m−3 |
参考実験値
磁束密度とホール電圧
試料電流を10.0 mAに一定とした場合の参考値です。
| 磁束密度B(T) | 正方向の磁場での測定値(mV) | 逆方向の磁場での測定値(mV) | 補正後のホール電圧(mV) |
|---|---|---|---|
| 0.00 | 0.12 | 0.12 | 0.00 |
| 0.10 | −1.13 | 1.37 | −1.25 |
| 0.20 | −2.38 | 2.62 | −2.50 |
| 0.30 | −3.63 | 3.87 | −3.75 |
| 0.40 | −4.88 | 5.12 | −5.00 |
| 0.50 | −6.13 | 6.37 | −6.25 |
補正後のホール電圧は、磁場を反転した2つの測定値を用いて次のように求めた例です。
VH = {V(+B) − V(−B)}/2
試料電流とホール電圧
磁束密度を0.40 Tに一定とした場合の参考値です。
| 試料電流I(mA) | 補正後のホール電圧(mV) |
|---|---|
| 2.0 | −1.01 |
| 4.0 | −2.00 |
| 6.0 | −3.01 |
| 8.0 | −4.00 |
| 10.0 | −5.00 |
| 12.0 | −5.99 |
繰り返し測定の参考値
磁束密度0.40 T、試料電流10.0 mAで5回測定した例です。
| 測定回 | ホール電圧(mV) |
|---|---|
| 1 | −4.98 |
| 2 | −5.02 |
| 3 | −5.01 |
| 4 | −4.99 |
| 5 | −5.00 |
| 平均 | −5.00 |
計算方法
磁場反転によるゼロ点補正
磁束密度0.40 Tで、正方向の磁場に対する測定値が−4.88 mV、逆方向の磁場に対する測定値が5.12 mVの場合は、次のようになります。
VH = {V(+B) − V(−B)}/2
= {−4.88 − 5.12}/2
= −5.00 mV
両測定値に共通して含まれていた0.12 mVのオフセット電圧は、この計算によって除去されます。
磁束密度に対するグラフの傾き
磁束密度0.10 Tで−1.25 mV、0.50 Tで−6.25 mVであった場合、傾きは次のようになります。
a = ΔVH/ΔB
= {−6.25 − (−1.25)} × 10−3 / (0.50 − 0.10)
= −1.25 × 10−2 V/T
グラフの傾きからホール係数を求める
ホール電圧と磁束密度の関係は、次のように表されます。
VH = (RHI/d)B
したがって、グラフの傾き a は次のようになります。
a = RHI/d
RH = ad/I
傾き−1.25 × 10−2 V/T、試料厚さ0.50 mm、試料電流10.0 mAの場合は、次のようになります。
d = 0.50 mm = 5.0 × 10−4 m
I = 10.0 mA = 1.00 × 10−2 A
RH = ad/I
= (−1.25 × 10−2)(5.0 × 10−4)/(1.00 × 10−2)
= −6.25 × 10−4 m3/C
1点の測定値からホール係数を求める
ホール電圧−5.00 mV、厚さ0.50 mm、試料電流10.0 mA、磁束密度0.40 Tの場合は、次のようになります。
RH = VHd/(IB)
= (−5.00 × 10−3)(5.0 × 10−4)/{(1.00 × 10−2)(0.40)}
= −6.25 × 10−4 m3/C
キャリア密度を求める
n = 1/(e|RH|)
= 1/{(1.602 × 10−19)(6.25 × 10−4)}
= 9.99 × 1021 m−3
≈ 1.00 × 1022 m−3
キャリアの種類を判定する
今回の参考値ではホール係数が負であるため、主なキャリアは負電荷をもつ電子であり、試料はn型半導体と判断できます。
ホール係数が正であれば、主なキャリアは正孔であり、p型半導体と判断します。
相対誤差を求める
参考値を−6.00 × 10−4 m3/C、実験値を−6.25 × 10−4 m3/Cとした場合は、絶対値を用いて次のように計算できます。
相対誤差(%) = ||実験値| − |参考値|| / |参考値| × 100
= |6.25 − 6.00|/6.00 × 100
= 4.17%
主な誤差原因
| 誤差原因 | 測定への影響 | 結果に現れやすい傾向 | 改善方法 |
|---|---|---|---|
| ホール電極の位置ずれ | 縦方向の電圧降下が混入する | 磁場0でも電圧が現れる | 磁場反転または電流反転で補正する |
| 試料の厚さ測定誤差 | ホール係数の計算へ直接影響する | 厚さを大きく見積もるとRHも大きくなる | 複数箇所をマイクロメータで測定する |
| 磁束密度の不均一 | 試料全体へ同じ磁場が加わらない | VHとBの比例関係が崩れる | 磁極中央に試料を配置する |
| 磁束密度計の校正誤差 | Bの値が系統的にずれる | ホール係数が一定方向へずれる | 校正済みの磁束計を使用する |
| 試料電流の変動 | ホール電圧が比例して変化する | 測定値がばらつく | 定電流電源を使用する |
| 試料の発熱 | キャリア密度や移動度が変化する | 時間とともに電圧が変化する | 電流を小さくし、測定時間を短くする |
| 熱起電力 | 温度差による微小電圧が重なる | 磁場や電流を0にしてもオフセットが残る | 極性反転測定を行い平均する |
| 接触抵抗 | 試料電流や電圧測定が不安定になる | 再現性が低下する | 電極を確実に接触させる |
| 電圧計の分解能・ノイズ | 微小なホール電圧を正確に読めない | 低磁場・低電流域で相対誤差が大きい | 微小電圧計を使い平均化する |
| 磁場方向のずれ | 試料面に垂直な磁場成分が小さくなる | ホール電圧が理論値より小さくなる | 試料と磁場を直角に配置する |
| 電流方向のずれ | 有効な直交成分が小さくなる | ホール電圧が小さくなる | 電極配置を確認する |
| 磁気ヒステリシス | 同じ励磁電流でもBが一致しない | 増加時と減少時で異なる値になる | 各点でBを直接測定する |
| 複数キャリアの寄与 | 単一キャリアモデルが成立しない | 1/(nq)から求めた密度が実態と異なる | 単純化の仮定を明記する |
| 試料の不均一性 | 場所によりキャリア密度が異なる | 測定位置によって結果が変わる | 均一な試料を用い、複数位置で測る |
ホール電圧が磁束密度に比例する理由
磁場中を移動するキャリアに働くローレンツ力は磁束密度に比例します。磁束密度が大きいほどキャリアの偏りが大きくなり、その偏りを打ち消す横方向の電場も大きくなるため、ホール電圧は磁束密度に比例します。
ホール電圧が試料電流に比例する理由
試料電流が大きいほど、単位時間に移動するキャリアの量またはキャリアの平均移動速度が大きくなります。その結果、磁場によるローレンツ力の効果も大きくなり、ホール電圧が増加します。
磁場や電流を反転すると極性が変わる理由
ローレンツ力の向きは、キャリアの速度方向、磁場方向、電荷の符号によって決まります。磁場または電流のどちらか一方を反転すると、キャリアに働く力の向きも反転するため、ホール電圧の極性が変化します。
磁場と電流を同時に反転した場合は、ローレンツ力の向きが元と同じになるため、ホール電圧の極性も元と同じになります。
磁場反転測定を行う理由
ホール電極が完全に向かい合っていない場合、試料の長手方向の電圧降下がホール電圧へ混入します。この混入電圧は磁場を反転しても符号が変わりませんが、真のホール電圧は符号が変わります。
そのため、正負の磁場で測定した値の差を2で割ることで、磁場に依存しないオフセット成分を取り除くことができます。
金属より半導体で測定しやすい理由
ホール係数の大きさはキャリア密度に反比例します。一般に半導体は金属よりキャリア密度が小さいため、同じ電流、磁束密度、厚さで比較すると、半導体の方が大きなホール電圧を得やすくなります。
結果の書き方の例
厚さ0.50 mmのn型半導体試料へ10.0 mAの電流を流し、0~0.50 Tの磁場を加えてホール電圧を測定した。
補正後のホール電圧は、磁束密度0.10 Tで−1.25 mV、0.30 Tで−3.75 mV、0.50 Tで−6.25 mVとなり、磁束密度の増加に伴って直線的に変化した。
ホール電圧と磁束密度のグラフの傾きは−1.25 × 10−2 V/Tであり、この傾きから求めたホール係数は−6.25 × 10−4 m3/C、キャリア密度は1.00 × 1022 m−3であった。
考察につなげるポイント
- ホール電圧は磁束密度に比例したか。
- ホール電圧は試料電流に比例したか。
- グラフは原点を通る直線になったか。
- 磁場を反転するとホール電圧の極性は反転したか。
- 電流を反転するとホール電圧の極性は反転したか。
- 磁場0でも電圧が測定された原因は何か。
- 磁場反転補正によってオフセットを除去できたか。
- ホール係数の符号からキャリアの種類を判定できたか。
- 求めたキャリア密度は妥当であったか。
- 試料の厚さ測定誤差は結果へどの程度影響したか。
- 試料の発熱や温度変化は無視できたか。
- 磁場の不均一や試料位置のずれはなかったか。
- 単一キャリアモデルの仮定は妥当であったか。
考察例
本実験では、厚さ0.50 mmのn型半導体試料へ一定電流を流し、試料面に垂直な磁場を加えたときに生じるホール電圧を測定した。
試料電流を10.0 mAに一定とし、磁束密度を0.10 Tから0.50 Tまで変化させたところ、補正後のホール電圧は−1.25 mVから−6.25 mVまでほぼ直線的に変化した。
ホール電圧と磁束密度のグラフはおおむね直線となったため、ホール電圧が磁束密度に比例するという理論式 VH = RHIB/d と一致した。
また、磁束密度を0.40 Tに一定として試料電流を変化させた場合も、ホール電圧は電流にほぼ比例した。この結果から、ホール電圧が磁束密度と試料電流の両方に比例することを確認できた。
磁場を正方向から逆方向へ反転すると、測定電圧の符号も反転した。これは、磁場を反転するとキャリアに働くローレンツ力の向きが逆になり、試料内で電荷が偏る方向も逆になるためである。
磁場を加えていない場合でも約0.12 mVの電圧が測定された。この原因として、ホール電圧測定用の電極が完全に同じ位置へ配置されておらず、試料の長手方向に生じる電圧降下の一部が混入したことが考えられる。
そこで、正方向と逆方向の磁場で測定した値の差を2で割り、磁場反転による補正を行った。磁場に依存しないオフセット電圧は符号が変化しない一方、真のホール電圧は符号が反転するため、この方法によってオフセット成分を除去できる。
ホール電圧と磁束密度のグラフの傾きは−1.25 × 10−2 V/Tであった。この値と試料厚さ0.50 mm、試料電流10.0 mAから、ホール係数は−6.25 × 10−4 m3/Cと求められた。
ホール係数が負であったことから、主な電荷担体は負電荷をもつ電子であり、試料はn型半導体であると判断できた。
単一種類のキャリアが伝導へ寄与すると仮定し、n = 1/(e|RH|)を用いて計算したところ、キャリア密度は約1.00 × 1022 m−3となった。
理論値と実験値の差が生じた原因として、試料厚さの測定誤差、磁束密度の不均一、試料電流の変動、電極位置のずれ、接触抵抗、微小電圧計の分解能などが考えられる。
特にホール係数は試料厚さに比例して計算されるため、厚さの測定誤差がそのままホール係数の相対誤差へ影響する。薄い試料ではわずかな厚さの読み取り誤差でも無視できないため、複数箇所を測定して平均値を用いる必要がある。
また、試料電流を大きくするとホール電圧は増加するが、ジュール熱によって試料温度も上昇する。半導体ではキャリア密度や移動度が温度に依存するため、発熱が大きい場合にはホール係数が一定であるという仮定からずれる可能性がある。
磁極間の磁束密度が一様でない場合や、試料が磁極の中央からずれている場合には、磁束計で測定した値と試料が実際に受ける平均磁束密度が一致しない。この影響を小さくするには、試料を磁極中央へ正確に配置し、試料位置で磁束密度を測定することが重要である。
さらに、実際の半導体では複数種類のキャリアが伝導へ寄与する場合があり、その場合は単純な RH = 1/(nq) が厳密には成立しない。今回のキャリア密度は、単一キャリアモデルに基づく近似値として扱う必要がある。
測定精度を高めるには、磁場と電流の両方について正負の極性で測定して平均すること、試料温度を一定に保つこと、定電流電源を使用すること、試料厚さを複数箇所で測定することが有効である。
以上より、ホール電圧が磁束密度および試料電流に比例し、その極性と大きさからホール係数、キャリアの種類、キャリア密度を求められることを実験的に確認できた。
グラフが原点を通らなかった場合の考察例
ホール電圧と磁束密度のグラフが原点を通らなかった原因として、ホール電極の位置ずれによる縦方向電圧の混入、接点間の熱起電力、電圧計のゼロ点ずれなどが考えられる。正負の磁場で測定した値の差を2で割ることで、磁場に依存しないオフセットを補正できる。
高磁場側で比例関係から外れた場合の考察例
高磁場側でホール電圧が直線関係から外れた原因として、磁束密度の測定位置と試料位置の違い、電磁石の磁気飽和、試料の発熱、複数キャリアの寄与などが考えられる。励磁電流ではなく、各測定点で実測した磁束密度を用いて整理する必要がある。
キャリアの符号が予想と異なった場合の考察例
ホール係数の符号が予想と異なった原因として、ホール電圧端子の接続方向、電流方向、磁場方向の定義を取り違えた可能性がある。装置の座標方向と電圧計の正負端子を確認し、磁場または電流を反転したときに電圧極性が反転するかを再確認する必要がある。
測定値のばらつきが大きかった場合の考察例
測定値のばらつきが大きかった原因として、試料電流の変動、電極の接触不良、微小電圧への電気的ノイズの混入、試料温度の変化などが考えられる。配線を短くしてシールドし、測定値を複数回取得して平均することが有効である。
まとめ
ホール効果では、電流を流した試料へ垂直な磁場を加えると、電流と磁場の両方に垂直な方向へホール電圧が生じます。
ホール電圧は磁束密度と試料電流に比例し、試料厚さに反比例します。ホール係数の符号から主なキャリアが電子か正孔かを判定し、その大きさからキャリア密度を求められます。
考察では、比例関係、磁場反転による極性変化、ゼロ点補正、ホール係数、キャリア密度、試料厚さ、温度変化、磁場の不均一、単一キャリアモデルの仮定などを関連づけて説明することが重要です。
