フッ素は周期表の17族(ハロゲン)に属する元素で、
非常に高い反応性を持つことで知られています。
単体のフッ素は通常、フッ素ガス(F2)として存在しますが、
自然界では反応性が高いため、単体として存在することはほとんどありません。
一方、フッ化水素(HF)はフッ素と水素からなる化合物で、
水に溶けたものはフッ化水素酸、一般にはフッ酸と呼ばれます。
フッ化水素は半導体、ガラス、金属表面処理、
フッ素樹脂や冷媒などの製造に使われる重要な工業原料です。
また「フッ素」という言葉は、
歯科医院でのフッ素塗布、フッ素入り歯磨き粉、
水道水のフッ素など、日常生活でもよく聞きます。
ただし、歯科や歯磨き粉で使用されているものは、
危険なフッ素ガスF2そのものではありません。
主にフッ化ナトリウムなどのフッ化物が利用されています。
この記事では、フッ素とフッ化水素の違い、
自然界での存在、反応性、危険性、工業用途に加えて、
歯科医院、歯磨き粉、水道水で利用されるフッ化物の種類、
濃度や価格の目安についても解説します。
- フッ素とは
- 「フッ素」と「フッ化物」は厳密には違う
- フッ化水素とは
- フッ素は自然界のどこに存在するのか
- 蛍石はどの国で採掘されているのか
- フッ化水素はどのように作られるのか
- なぜフッ素は非常に反応性が高いのか
- フッ素ガスの危険性
- フッ化水素・フッ化水素酸の危険性
- フッ化水素酸がガラスを腐食する理由
- フッ化水素は何に使われているのか
- 歯医者で使う「フッ素」とは
- 歯科のフッ素はなぜ虫歯を防ぐのか
- 歯医者でのフッ素塗布はいくらなのか
- 歯磨き粉に入っているフッ素とは
- 年齢によって推奨されるフッ素濃度が違う
- 歯磨き粉のフッ素濃度はどのくらい高いのか
- フッ素入り歯磨き粉はいくらなのか
- 水道水にもフッ素は入っているのか
- 日本の水道水のフッ素濃度
- 水道水フロリデーションとは
- 日本では水道水に虫歯予防目的でフッ素を入れているのか
- 水道水フロリデーションでは何を入れるのか
- 水道水のフッ素はいくらなのか
- 歯科・歯磨き粉・水道水では濃度が大きく違う
- なぜ9,000ppmの歯科用フッ素と0.7ppmの水道水を同じように考えないのか
- フッ化物を摂りすぎるとどうなるのか
- フッ素ガスと歯磨き粉のフッ素は危険性が全く違う
- フッ素化合物が便利なのはなぜか
- フッ化水素を製造している主な企業
- フッ化水素市場のシェア
- フッ素・フッ化物・フッ化水素を整理すると
- まとめ
フッ素とは
フッ素(fluorine)は元素記号F、原子番号9の元素です。
周期表では塩素、臭素、ヨウ素などと同じ17族の
「ハロゲン」に分類されます。
元素記号:F
原子番号:9
原子量:約19.00
分類:ハロゲン
単体:F2
常温における単体のフッ素は、
F2という二原子分子からなる淡黄色の気体です。
フッ素ガスは極めて強力な酸化剤で、
多くの金属、非金属、有機化合物などと反応します。
このため自然界では、
F2としてではなく、
他の元素と結合したフッ化物として存在するのが一般的です。
「フッ素」と「フッ化物」は厳密には違う
日常生活では「フッ素入り歯磨き粉」
「歯医者でフッ素を塗る」といった表現が使われます。
しかし化学的には、
これらに単体のフッ素ガスF2が
入っているわけではありません。
フッ素
元素としてのF
フッ素ガス
単体のF2
フッ化物
フッ素が他の元素と結合した化合物やイオン
歯科分野で「フッ素」と呼ばれているものの多くは、
実際にはフッ化ナトリウムなどの
フッ化物を利用しています。
フッ化水素とは
フッ化水素(hydrogen fluoride)は、
水素とフッ素からなる化合物で、
化学式はHFです。
化学式:HF
分子量:約20.01
無水フッ化水素の沸点:約19.5℃
フッ化水素は水に非常によく溶けます。
HFを水に溶かした水溶液が
フッ化水素酸(hydrofluoric acid)です。
「フッ化水素」と「フッ化水素酸」は厳密には異なります。
HFという化合物そのものがフッ化水素で、
HFの水溶液がフッ化水素酸です。
フッ素は自然界のどこに存在するのか
フッ素は反応性が非常に高いため、
自然界で単体として存在することはほとんどありません。
代表的な天然鉱物が
フッ化カルシウム(CaF2)を主成分とする
蛍石(fluorite、fluorspar)です。
蛍石の主要成分
CaF2
フッ化カルシウム
蛍石はフッ化水素や各種フッ素化合物を製造するための
重要な天然資源です。
特に純度の高い酸級蛍石
(acid-grade fluorspar)は、
フッ化水素製造の主要原料として使用されます。
蛍石はどの国で採掘されているのか
世界の蛍石生産では中国の占める割合が非常に大きくなっています。
2025年の世界蛍石生産量:約1,000万トン
中国:約600万トン
メキシコ:約150万トン
モンゴル:約150万トン
南アフリカ:約41万トン
中国だけで世界生産量のおよそ6割を占めており、
フッ素化学産業の原料供給において
非常に大きな存在となっています。
フッ化水素はどのように作られるのか
工業的なフッ化水素は、
主に蛍石に含まれるフッ化カルシウムを原料として製造されます。
基本的な反応では、
フッ化カルシウムと硫酸から
フッ化水素が生成します。
CaF2 + H2SO4
→ 2HF + CaSO4
得られたフッ化水素を精製し、
無水フッ化水素や各種濃度の
フッ化水素酸として利用します。
フッ化水素は非常に有毒で腐食性が高いため、
工業設備で厳密に管理して製造される物質です。
一般的な実験設備で製造を試みるような物質ではありません。
なぜフッ素は非常に反応性が高いのか
フッ素の反応性の高さは、
原子の大きさと電子配置に関係しています。
フッ素原子は最外殻電子を7個持っており、
あと1個電子を受け取ることで
安定な閉殻電子配置になります。
またフッ素原子は非常に小さく、
原子核が電子を強く引きつけます。
フッ素のPauling電気陰性度:約3.98
フッ素は全元素の中で最も電気陰性度が大きく、
他の原子から電子密度を強く引き寄せます。
またF2分子では、
フッ素原子同士の非共有電子対の反発が大きいため、
F-F結合はそれほど強くありません。
一方で反応後に生成する
H-F結合、C-F結合、金属フッ化物などには
非常に安定なものが多く存在します。
このためF2は、
非常に強力な反応性を示します。
フッ素ガスの危険性
フッ素ガスF2は
極めて強力な酸化剤です。
多くの有機物、金属、還元性物質などと激しく反応し、
条件によっては発火や爆発を引き起こす可能性があります。
また強い毒性と腐食性があり、
吸入すると呼吸器に重大な障害を与える可能性があります。
水分とも反応するため、
眼、呼吸器、皮膚などの水分と接触した場合には
フッ化水素を生成することもあります。
フッ素ガスは「燃料として燃えやすいガス」ではなく、
他の物質を非常に強く酸化する酸化性ガスです。
フッ化水素・フッ化水素酸の危険性
フッ化水素酸は強い腐食性を持っていますが、
危険性は一般的な酸による化学熱傷だけではありません。
HFは組織へ浸透しやすく、
フッ化物イオンが体内のカルシウムイオンや
マグネシウムイオンと結合することがあります。
そのため皮膚表面だけでなく、
深部組織にまで損傷が及ぶ可能性があります。
大量の暴露では血液中の電解質バランスにも影響し、
重篤な全身症状につながる可能性があります。
フッ化水素酸への皮膚・眼・吸入暴露は
緊急性の高い化学事故です。
暴露が疑われる場合には、
使用していた製品のSDSや施設の緊急手順に従い、
速やかな専門的医療対応が必要です。
フッ化水素酸がガラスを腐食する理由
一般的なガラスの主成分は
二酸化ケイ素(SiO2)です。
フッ化水素はケイ素と反応し、
フッ化ケイ素系の化学種を生成するため、
ガラスを腐食できます。
この性質はガラス加工だけでなく、
半導体製造でSiO2膜を除去する
エッチング工程にも利用されています。
フッ化水素は何に使われているのか
フッ化水素は単独で最終製品として使用するだけではなく、
多くのフッ素化合物を製造するための
基礎原料として利用されています。
半導体
高純度フッ化水素酸は、
シリコンウェハーの洗浄や
SiO2膜のエッチングなどに使用されます。
フッ素樹脂
PTFEなどのフッ素樹脂や
フッ素ゴムを含む各種フッ素系材料の製造にも
フッ素化学原料が利用されます。
冷媒
エアコン、冷蔵庫、冷凍機などで使用される
各種フッ素系冷媒の製造にも関係しています。
ガラス加工
HFがSiO2を腐食する性質を利用し、
ガラスのエッチングや表面処理に使用されます。
金属表面処理
ステンレス鋼などの酸洗いや表面処理でも、
HFを含む薬液が利用される場合があります。
電池材料
LiPF6など、
リチウムイオン電池に使用される
フッ素系材料の製造にもフッ素化学が関係しています。
歯医者で使う「フッ素」とは
歯科医院で「フッ素を塗る」と言われる場合にも、
フッ素ガスF2を歯に塗っているわけではありません。
主に使用されるのは、
フッ化ナトリウムなどを含む
高濃度のフッ化物製剤です。
歯科で使用される代表例
2%フッ化ナトリウム(NaF)溶液
リン酸酸性フッ化物(APF)溶液
リン酸酸性フッ化ナトリウムゲル
フッ化物イオン濃度:約9,000ppmF
歯科医院でのフッ化物歯面塗布は、
家庭用歯磨き粉よりも
はるかに高い濃度のフッ化物を使用します。
ただし使用量は少なく、
歯科医師や歯科衛生士が管理して歯の表面に塗布します。
歯科のフッ素はなぜ虫歯を防ぐのか
フッ化物が歯の表面に存在すると、
虫歯によって失われたカルシウムやリンが
歯に戻る再石灰化を促進します。
また、歯の表面を酸に対して
より抵抗性の高い状態にする作用や、
虫歯原因菌の活動を抑える作用もあります。
高濃度のフッ化物を塗布すると、
歯の表面にはフッ化カルシウム様の物質が形成され、
フッ化物を一時的に蓄える役割を果たします。
歯医者でのフッ素塗布はいくらなのか
虫歯の治療ではなく、
予防のみを目的としたフッ化物塗布は
自由診療となる場合があります。
料金は歯科医院によって異なりますが、
公開されている料金例では、
1回数百円から2,000円程度の医院があります。
フッ素塗布の料金例
約550円
約1,100円
約2,200円
したがって一例としては、
1回500~2,200円程度の範囲が見られます。
自治体による乳幼児向け事業では
補助を受けられることもあります。
例えば東京都世田谷区の対象者向けフッ素塗布事業では、
自己負担額は880円となっています。
フッ素塗布の料金は全国一律ではありません。
年齢、虫歯リスク、治療の一部として行うか、
自費の予防処置として行うか、
自治体の助成制度を利用できるかなどによって変わります。
歯磨き粉に入っているフッ素とは
市販されている「フッ素入り歯磨き粉」にも、
F2ガスが含まれているわけではありません。
使用される代表的なフッ化物には
次のようなものがあります。
フッ化ナトリウム:NaF
モノフルオロリン酸ナトリウム:MFP
フッ化第一スズ:SnF2
日本で販売されている薬用歯磨き剤では、
フッ化物イオン濃度は1,500ppmF以下とされています。
成人向けの高濃度フッ素配合歯磨き粉では、
1,450ppmFの商品が広く販売されています。
年齢によって推奨されるフッ素濃度が違う
2023年に日本口腔衛生学会、
日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、
日本老年歯科医学会の4学会が公表した推奨では、
年齢によって濃度と使用量が分けられています。
歯が生えてから2歳まで
900~1,000ppmF
米粒程度(1~2mm程度)
3~5歳
900~1,000ppmF
グリーンピース程度(約5mm)
6歳以上~成人・高齢者
1,400~1,500ppmF
歯ブラシ全体(約1.5~2cm)
特に1,450ppm程度の高濃度フッ化物配合歯磨き粉は、
日本では6歳以上を対象としています。
歯磨き粉のフッ素濃度はどのくらい高いのか
ppmは100万分の1を表します。
例えば1,450ppmFの歯磨き粉には、
重量比で約0.145%のフッ素が含まれていることになります。
1,450ppm
= 0.145%
歯科医院で使われる約9,000ppmFと比較すると、
家庭用歯磨き粉はかなり低濃度です。
フッ素入り歯磨き粉はいくらなのか
フッ素入り歯磨き粉は特別に高価な製品ではなく、
一般的な市販歯磨き粉の多くにフッ化物が配合されています。
例えばフッ素濃度1,450ppmの
130g入り一般向け歯磨き粉では、
数百円程度で販売されている例があります。
1,450ppmF歯磨き粉の価格例
約130g:385円程度
販売店、時期、製品によって価格は変動します。
つまり家庭でのフッ化物利用は、
1回あたりで考えると非常に安価です。
水道水にもフッ素は入っているのか
フッ化物は鉱物や岩石にも存在するため、
天然の水にも微量のフッ化物が含まれることがあります。
したがって、
人為的にフッ化物を添加していない水道水にも、
水源によっては天然由来のフッ化物が存在します。
日本の水道水のフッ素濃度
日本の水道水では、
「フッ素及びその化合物」について
水質基準が定められています。
日本の水道水質基準
フッ素として
0.8mg/L以下
1mg/Lは水溶液では概ね1ppmに相当するため、
0.8mg/Lは約0.8ppmと考えることができます。
水道水フロリデーションとは
水道水フロリデーションとは、
虫歯予防を目的として
水道水中のフッ化物濃度を
適切な範囲に調整する公衆衛生的方法です。
天然のフッ化物濃度が低ければ追加し、
高すぎる場合には逆に除去して
適切な濃度へ調整する考え方です。
米国公衆衛生局では、
虫歯予防と歯のフッ素症リスクのバランスから、
水道水中のフッ化物濃度として
0.7mg/Lを推奨しています。
米国の推奨濃度
0.7mg/L
≒ 0.7ppm
日本では水道水に虫歯予防目的でフッ素を入れているのか
現在の日本では、
虫歯予防を目的として
水道水全体のフッ化物濃度を調整する
水道水フロリデーションは実施されていません。
過去には京都市山科地区で1952年から1965年、
沖縄県で1957年から1972年、
三重県朝日町で1967年から1971年に
実施された例があります。
現在の日本の水道水に含まれるフッ化物は、
基本的には水源などに由来する天然のフッ化物であり、
水質基準の範囲内になるよう管理されています。
水道水フロリデーションでは何を入れるのか
海外の水道水フロリデーションでは、
危険なフッ素ガスF2を
水道水に直接入れているわけではありません。
水処理設備で利用される代表的なフッ化物には、
次のようなものがあります。
フッ化ナトリウム:NaF
フルオロケイ酸
フルオロケイ酸ナトリウム
水道水中では最終的に非常に低い濃度の
フッ化物イオンとして存在します。
水道水のフッ素はいくらなのか
日本では現在、
虫歯予防を目的とした水道水フロリデーションが
行われていないため、
「フッ素添加料金」が水道利用者に
別料金として請求されることはありません。
天然に含まれているフッ化物についても、
通常の水道料金に含まれており、
フッ素だけの料金というものはありません。
海外の水道水フロリデーションでは、
薬剤費だけでなく、
添加装置、濃度測定、設備管理、人件費などが必要になります。
米国の経済評価では、
水道水フロリデーションの年間コストとして、
1人あたり約0.11~4.89ドルという範囲が報告された研究があります。
人口が多い水道事業ほど、
1人あたりの費用は小さくなる傾向があります。
この金額は米国の過去の経済研究による参考値であり、
現在の日本で実施した場合の費用を示すものではありません。
設備規模、薬剤価格、人件費などによって大きく変化します。
歯科・歯磨き粉・水道水では濃度が大きく違う
歯科医院のフッ化物歯面塗布
約9,000ppmF
歯科医師・歯科衛生士が使用
料金例:約500~2,200円/回
成人用の高濃度フッ素歯磨き粉
約1,450ppmF
毎日のセルフケア
価格:一般的な製品なら数百円程度から
フロリデーションされた水道水
米国推奨:約0.7ppmF
日常的に飲む水として利用
日本の水道水質基準
0.8ppm相当以下
このように「フッ素」と一言で呼ばれていても、
使用される化合物、濃度、使用方法は大きく異なります。
なぜ9,000ppmの歯科用フッ素と0.7ppmの水道水を同じように考えないのか
化学物質の影響を考える場合には、
「何という物質か」だけではなく、
濃度、使用量、暴露経路、使用時間などを
一緒に考える必要があります。
歯科医院では約9,000ppmFという
高濃度の製剤を使用しますが、
少量を短時間、歯の表面に専門家が使用します。
歯磨き粉はそれより低い
約1,000~1,450ppm程度を
毎日の歯磨きに使用します。
一方、水道水フロリデーションでは
約0.7ppmという非常に低い濃度を利用します。
濃度だけを比較すると
歯科塗布:約9,000ppm
歯磨き粉:約1,450ppm
フロリデーション水:約0.7ppm
歯科塗布はフロリデーション水の
約1万3,000倍の濃度になります。
しかし、歯科塗布を水のように飲むわけではありません。
そのため単純にppmだけを比較して
危険性を判断することはできません。
フッ化物を摂りすぎるとどうなるのか
フッ化物は適切な濃度・使用方法では
虫歯予防に利用できますが、
過剰摂取すれば好ましくない影響が生じる可能性があります。
特に歯が形成されている幼児期に
長期間過剰なフッ化物を摂取すると、
歯のフッ素症(歯牙フッ素症)が生じる可能性があります。
軽度では歯の表面に白い線や斑点が見られることがあります。
このため子どもの歯磨きでは、
年齢に応じたフッ化物濃度だけでなく、
歯磨き粉を使用する量も重要です。
フッ素ガスと歯磨き粉のフッ素は危険性が全く違う
フッ素について理解するときに最も重要なのが、
元素を含んでいるからといって
同じ性質を示すわけではないという点です。
F2
フッ素ガス
非常に反応性が高い強力な酸化剤
HF
フッ化水素
強い腐食性と毒性を持つ
NaF
フッ化ナトリウム
歯磨き粉や歯科製剤などに利用
CaF2
フッ化カルシウム
天然の蛍石として存在
例えば塩素ガスCl2と
食塩NaClの性質が全く異なるのと同じように、
フッ素ガスF2と
フッ化ナトリウムNaFも別の物質です。
フッ素化合物が便利なのはなぜか
単体のフッ素F2は非常に反応性が高い一方、
フッ素を含む化合物には
非常に安定したものが多数あります。
代表例が炭素とフッ素のC-F結合です。
C-F結合は非常に強いため、
フッ素樹脂には耐熱性、耐薬品性、
低摩擦性など優れた性質を持つものがあります。
フッ素化学では、
非常に反応性の高い元素を利用して
非常に安定な化合物を作るという特徴があります。
フッ化水素を製造している主な企業
フッ化水素や高純度フッ化水素酸は、
世界各国のフッ素化学メーカーによって製造されています。
代表的な企業として、
Honeywell、Solvay、Stella Chemifa、
Daikin Industries、LANXESS、
Kouraなどがあります。
ステラケミファ
ステラケミファは日本の代表的な
高純度フッ素化合物メーカーの一つです。
特に半導体・電子材料向けの
高純度フッ化水素酸を扱っています。
ダイキン工業
ダイキン工業は空調機器だけでなく、
世界的なフッ素化学メーカーでもあります。
フッ素樹脂、フッ素ゴム、
フッ素系中間体などを幅広く扱っています。
森田化学工業
森田化学工業は、
無水フッ化水素酸、
工業用フッ化水素酸、
半導体用フッ化水素酸、
フッ化アンモニウムなどを扱う
日本のフッ素化学メーカーです。
Honeywell
Honeywellは米国の大手企業で、
フッ化水素を含む
各種フッ素化学製品を扱っています。
Solvay
Solvayも世界の主要な
フッ素化学関連企業の一つです。
Koura
KouraはOrbiaグループのフッ素化学事業で、
蛍石からフッ化水素、
さらに下流のフッ素化学製品まで扱っています。
フッ化水素市場のシェア
フッ化水素については、
世界全体を統一した最新の企業別生産量を示す
公的統計はありません。
また中国を中心として多数のメーカーが存在するため、
市場調査会社によってシェアの推計値も異なります。
公開されている2021年市場の推計例では、
Stella Chemifa、Solvay、Honeywell、
Zhejiang Sanmei Chemical、
Daikin Industriesなどが
主要メーカーとして挙げられています。
2021年市場の企業別シェア推計例
Stella Chemifa:約11.5%
Solvay:約6.6%
Honeywell:約5.3%
Zhejiang Sanmei Chemical:約5.3%
Do-Fluoride New Materials:約3.6%
LANXESS:約3.5%
Daikin Industries:約3.1%
Koura:約1.5%
企業別市場シェアは調査会社、
対象製品、地域、調査年度によって異なります。
上記は現在のシェアを示すものではなく、
公開されている過去の市場推計の一例です。
フッ素・フッ化物・フッ化水素を整理すると
フッ素ガス F2
非常に反応性が高い
強力な酸化剤
特殊な工業用途
フッ化水素 HF
強い腐食性・毒性
半導体やフッ素化学の重要原料
歯科用フッ化物
主にNaFやAPF
約9,000ppmF
専門家が歯面に塗布
歯磨き粉
NaF、MFP、SnF2など
最大1,500ppmF
市販品では1,450ppmFなど
水道水のフッ化物
天然由来または濃度調整
日本の水質基準:0.8mg/L以下
米国推奨フロリデーション濃度:0.7mg/L
まとめ
フッ素は元素記号F、原子番号9のハロゲン元素で、
単体ではF2という
非常に反応性の高い気体になります。
自然界では単体としてほとんど存在せず、
蛍石のCaF2など
安定したフッ化物として存在しています。
蛍石から製造されるフッ化水素HFは、
半導体、フッ素樹脂、冷媒、
ガラス加工、金属表面処理、
電池材料など、
現代産業の幅広い分野で利用されています。
一方、歯科医院や歯磨き粉で
一般に「フッ素」と呼ばれているものは、
危険なF2ガスではなく、
主としてフッ化ナトリウムなどのフッ化物です。
歯科医院では約9,000ppmF、
成人向け歯磨き粉では約1,450ppmF、
海外の水道水フロリデーションでは
約0.7ppmFというように、
用途によって濃度には非常に大きな違いがあります。
そのため「フッ素は危険か安全か」を考える場合には、
単にフッ素という元素名だけを見るのではなく、
どのような化合物なのか、
どの程度の濃度なのか、
どのような方法で使用するのかを
区別して考えることが重要です。
